変異ノロウイルス

変異ノロウイルス猛威 感染性腸炎、最大級の流行 免疫たんぱく質働かず

治療薬・ワクチンなし
ノロウイルスが今冬、猛威を振るっている。
国立感染症研究所の調査によると、同ウイルスなどによる感染性胃腸炎は、昨年12月までをみると最大級の流行だ。
ノロウイルスには感染を予防するワクチンやウイルスを殺す治療薬がないうえ、遺伝子の一部が変化した新しいウイルスが広まっていることも背景にある。
例年、流行は春先まで続く傾向があり、引き続き注意が必要だ。

ノロウイルスは1968年、米オハイオ州ノーウォークの小学校で集団で起きた胃腸炎の患者から初めて見つかり、地名をもとに「ノロ」と学名が付けられた。
全長が約38ナノメートル(ナノは10億分の1)ととても小さいウイルスで、耳かき1杯の便に1億個以上のウイルスが含まれる。
100~1000個が体に入ると感染し、感染力が強い。
 
感染すると激しい吐き気や下痢、発熱といった食中毒症状が2~3日続く。
ウイルスが直接の原因で死ぬことはないが、吐いたものがのどに詰まったり、肺に入って肺炎を起こしたりすると命に関わる場合もある。
下痢などによる脱水症状も危険だ。
 
感染研の調査によると、過去最高だった06年に次ぐ多さだ。

ウイルス突起変形
流行している原因のひとつは、遺伝子が変化したタイプが広がっているためだ。
ノロウイルスは遺伝子の違いで、5つのグループに分けられる。
そのうち、病気の原因となるのはほとんどが「グループ2」のウイルスだ。
 
グループ2の中でも、遺伝子の違いからさらに細かいタイプに分けられる。
今冬、流行しているのは「タイプ2」。
感染研の集計によると、昨年11月に検出された8割以上がこのタイプだった。
 
今冬の「タイプ2」は従来と少し形が違う。
ノロウイルスはRNA(リボ核酸)が1本しかなく、遺伝子が変化しやすい。
今年は遺伝子が変化し、ウイルス表面にたくさんある小さな突起の形が変わってしまった。
 
病原体から体を守る免疫を担うたんぱく質は、この突起の形を認識して腸にウイルスが侵入できないようにしている。
突起の形が変わったため、過去に「タイプ2」に感染して免疫を持っていてもウイルスの攻撃を防ぐたんぱく質が反応できず、感染する可能性があるという。
 
さらにノロウイルスには、治療に使える抗ウイルス薬や感染を予防するワクチンがない。
ヒトに感染するタイプのノロウイルスは細胞で増やすことができず、開発するのも、開発したものの効果を確かめるのも難しいからだ。
 
ノロと同様に胃腸炎を起こすロタウイルスは細胞で増やすことができ、ワクチンもある。
ノロウイルスは数日で治る病気なので、開発はワクチンが優先されている。
現在、武田薬品工業がワクチンを臨床試験している。
 
予防に効果のあるワクチンができたとしても、まだ難題がある。
流行するタイプが変わることがあり、今冬のように同じタイプでも変化も起きやすい。
異なるタイプや形のウイルスが流行したときに、ワクチンに効果があるかは未知数だ。

しっかり手洗い
ノロウイルスに感染しても症状の出ない人がおり、気付かずにウイルスを周りにまき散らす場合もある。
体力の無い乳幼児や高齢者がこうしたウイルスに感染、発病してさらにウイルスが広がる。
調理人が感染すると、大規模な食中毒が起こることもある。
 
感染者の便からでたウイルスは下水処理場で十分に排除できず、川や海に流れて、カキなどの二枚貝で濃縮されるという。
厚労省によると、カキに含まれるノロウイルスは中心部を85~90度で90秒以上加熱すれば死滅するという。
 
高齢者や保育施設での集団感染は、おむつ交換が原因と考えられている。
患者の便や嘔吐物を処理するときは使い捨ての手袋、マスク、エプロンを着て、静かに拭く。
インフルエンザウイルスと異なり、ウイルスには脂質の膜がないので、アルコールでは十分な消毒効果がない。
汚れた服やシーツの消毒には、次亜塩素酸ナトリウムが効果がある。
 
ノロウイルスは口から感染するため、予防の基本は手洗い。
食事前や調理前、トイレを出た後にはせっけんと流水でしっかり手を洗うことで、感染の多くを防げるという。

ノロウイルスの特徴(まとめ)
・1本の遺伝子(RNA)が入っている
・表面に多数の小さな突起がある
・人に感染するのは29種類で、突起の形が遺う。同じ種類でも少し形が遺うタイプがある
・脂質の膜がないため、アルコールでは十分な消毒の効果がない


ウイルスについて
ウイルスは、細菌などのように自分で栄養を取り込み、増える機能を持たない。
他の生物の細胞の中に入り、細胞の持つ仕組みを利用して増える。
このため生物ではないという考え方が主流だ。
たんぱく質の殼の中に遺伝子を持ち、インフルエンザウイルスのように外側に膜を持つタイプもある。
ウイルスが感染する細胞は種類によって異なり、人に感染すると病気を引き起こす場合がある。
細菌には効果がある抗菌剤も、ウイルスには効かない。抗菌剤は細胞が増える過程を妨げることで効果を出すからだ。

参考
日経新聞・朝刊 2017.1.27