人間の臓器、動物から作る

人間の臓器、動物から作る 米で研究先行、日本は禁止

iPS細胞やES細胞を使い、動物の体内でヒトの臓器を作る研究が進んでいる。
1月には米国のグループがヒトの細胞が混じったブタの胎児の作製に成功した。
日本では現在、このような研究が指針で禁じられており、改定に向けた議論が続いている。

ブタ受精卵にiPS細胞
米ソーク研究所(カリフォルニア州)のチームは1月、ヒトのiPS細胞をブタの受精卵に入れ、ヒトの細胞が混じったキメラ状態の胎児を作製したと発表した。
 
科学誌セルに掲載された論文によると、ブタの受精卵を、分裂が進んだ「胚盤胞」の状態まで成長させ、iPS細胞を注入。
子宮に戻した1466個のうち、186個が胎児に成長した。
妊娠3~4週間後に調べると、67個の筋肉などで、ヒトの細胞が混じっているのが確認できた。
 
心臓や肝臓、膵臓、腎臓などの複雑な臓器は、iPS細胞などから直接作ることが難しい。
そのため動物の体内を利用して作る研究が世界中で進む。
発生の仕組みがよく知られたブタは、ヒトと臓器の大きさが近く、最有力候補だ。
 
東京大とスタンフォード大で、ブタなどでの膵臓作製の研究に取り組む中内啓光教授(幹細胞生物学)らは1月、ラットの体内で、マウスの膵臓を作り、糖尿病マウスに移植して治療することに成功したと発表した。
遺伝子改変で膵臓を作れなくしたラットの胚盤胞に、マウスのES細胞を注入し、子宮に戻すとマウスの膵臓を持ったラットが生まれた。
 
ただ、ラットとマウスが同じネズミ科で、受精から誕生までの妊娠期間がほぼ同じなのに対して、ブタの妊娠期間はヒトの半分以下。
種としても離れており、キメラを作るのは簡単ではないとみられる。
 
実際、ソーク研究所の作ったブタ胎児で確認されたヒトの細胞はブタの細胞10万個当たり1個程度だったという。
中内さんは「成長すれば排除されてしまう可能性もある。改めてブタとヒトのキメラを作る難しさを示した」と指摘する。
 
キメラになる要因の一つは受精卵の分裂速度にある。
分裂の速度が違うと、片方だけの個体になったり、排除されたりしてしまう。
ブタの発生と整合性を持たせるため、注入するヒトの細胞の分化段階をいかに調整するかが今後の研究のポイントになる。

倫理的な懸念
日本では、クローン技術規制法に基づく文部科学省の指針で、ヒトのiPS細胞やES細胞を入れた動物の受精卵を子宮に戻し、子どもを作ることは禁じられている。
ヒトのような意識や人格を持った動物が生まれかねないといった倫理的な懸念があったためだ。
 
そのためソーク研究所が実施したような実験は今のところできないが、規制が厳しいという声もあり、文科省の委員会で改定に向けた検討が進んでいる。
 
昨年1月にまとまった科学的な検討結果では、臓器を作製できる可能性がある点では、iPS細胞などから直接作る他の手法より「優位」とし、子宮に戻すことによる研究の意義が示された。
 
今年1月に了承された倫理的観点のまとめでは、臨床用ヒト臓器を作製する段階までの研究は「社会的妥当性が認められる可能性が高い」とされた。
今後、作製が認められる臓器や、使う動物などについて議論する予定だが、「丁寧な説明で国民に許容されるか、総合的な検討が必要」としている。

 
キメラ
遺伝子の異なる細胞を一つの体にあわせもつ生物。
ギリシャ神話に登場するライオンの頭、ヤギの胴、ヘビの尾を持った怪獣に由来する。
遺伝子が混じりあってできる雑種とは異なる。
例えばオスのロバとメスのウマの交配から生まれるラバは、両方の遺伝子が混じりあった雑種で、キメラではない。

 
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参考・引用
朝日新聞・朝刊 2017.2.23