不妊治療

不妊治療、やめて見つけた道 体験談、ヒントに・・・「やめどき」考える本

不妊治療は、やめどきに悩むと言われる。
妊娠する可能性は加齢とともに低くなるがゼロではないからだ。
ただ、心身や治療費の負担に苦しむ人もいる。
そんな体験をまとめた「不妊治療のやめどき」(WAVE出版)が出版された。
著者は体験を寄せた人や、体験者を支援するNPO法人Fine理事長で著者の松本亜樹子さんだ。

葛藤10年 気づいた「幸せ」
Aさん(51)は30歳から10年間、不妊治療を受けた。
 
東京で書店の営業職として働いていた。
27歳のとき、2歳下の夫と職場結婚
治療を始めて5年間で人工授精を14回受けた。
仕事にやりがいはあったが休みは取りづらく、外回りの合間に通院した。
 
35歳で自然妊娠したが流産。
出張続きで無理していたからと自分を責めた。
仕事を続ける限り、無理をしてしまう。
思い悩んで退職した。
 
不妊クリニックの待合室は人であふれているのに、誰とも言葉を交わさない。
治療の結果もついてこない。
知人に「今は何をしているの?」と聞かれると、つらかった。
「仕事まで辞めたんだから、母にならなきゃ世の中に居場所がないと思った」
 
37歳のとき、夫の転勤で沖縄に移った。
懐かしい友人たちが訪ねてきて、「母親であってもなくても、私たちの関係は変わらない」
 
「あなたのままでいい」と言ってくれ、励まされた。
再び働き始め、人とのつながりもできた。

活を見つめなおすと、「夫婦2人でも幸せ」と感じた。
治療に対する執着が、少しずつ弱くなるのを感じた。
 
体外受精と顕微授精は合わせて12回受けた。
「これだけ頑張れば納得できる」。
気が向いたら病院に行けばいい。
そう思ったけれど、もう病院に通うことはなかった。
 
40歳から心理学を学び、今はカウンセラーとして活動している。
 
「母になるしか道はないと思った。でも、道は一つじゃない。そう感じてほしい」


期待と落胆「やりきった」
Bさん(51)は27歳で不妊治療を始め、36歳までに7回の体外受精を受けた。
治療のたびに期待しては落ち込む繰り返し。
「まるでジェットコースター」。
でも「そこから降りることもできなかった」。
 
3回目の時、医師から「受精卵の状態がいい」と言われたのに、妊娠の判定日を迎える前に生理が来た。
「子宮があるから期待してしまうんだ」と、思わず手にしたボールペンでおなかを刺そうとし
た。
「子どもがほしくて結婚したわけじゃないよ」という夫の言葉で、少し落ち善いた。
  
体外受精は高いから5回まで」と話していたが、あきらめきれなかった。
6回目のとき、初めて病院で判定日を迎えられた。
7回目は、新しい治療だと聞いて受けた。やりきったと感じた。

不妊治療が「私たちにとっては子どもをあきらめるためのステップだった」。
 
今は子ども向けの英会話講師として働く。
生徒の一人から「俺の人生で親の次に関わってくれたのは先生」と言われ、うれしくて言葉につまった。
「人生にはいろんな選択肢がある。でも全力で考えた道はきっと正しい」。
そう生徒に伝えていきたい。 


夫婦で未来像描き 心で納得を(著者 談)
どんなに低くても、治療の成功率がゼロじゃない。
それは希望でもあり、悩みの種でもある。
私も、治療のやめどきに悩んだ一人です。
 
治療を一生懸命続けてしまう人は真面目な方が多いんです。
頑張れば報われるという経験則を持っているからでしょう。
でも残念だけれど、頑張っても子を授かるとは限らないのが不妊治療です。
 
治療をすっぱりやめられる人は少数派。
治療ができなくなるまで続ける人も少なくありません。
夫婦で選んだ選択であれば、悪いこととは思いません。
後悔する人たちに共通するのは、「自分たちで選んでいない」「選択させられた」という感覚です。
大切なのは夫婦で話し合い、頭で理解し、互いに心で納得することです。
 
具体的に何歳までに子どもがほしいか、いくら貯金が必要か、養子縁組という選択はどうか、そもそも夫婦で思い描く未来に子どもはどうしても必要かなどを話し、夫婦の描く家族像を明確にしてみてください。
 
決してつらい話し合いではありません。
休みの日に公園を散歩しながら、語り合ってみてはいかがですか。
幸せへの道は一つではないし、幸せも一つではありません。
答えを持っているのは、それぞれの夫婦だけなんです。
 
治療をやめた後も、子を持てなかったという思いは一生残ります。
あんなに頑張ったのにって。
でもその分、得るものもあるはず。
後悔だけが残るわけではないのです。
  

「治療をやめたタイミング」の例
・45歳で採卵できなかったとき。複雑な気持ちだったけれど、時が経つにつれて落ち着いた
・治療を休んでいると体調が良いと気づき、無理をしていたと気づいた。そのまま足が遠のいた
・子どもが成人したときの年齢を考え、夫婦で話し合ううちに、2人で生きていくイメージがはっきり描け

・流産の後、夫婦で1年かけてカウンセリングを受け、気持ちや認識の違いを整理した。自然に任せるとい
う結論になった
・インターネットで里親家庭の話を見つけ、ハッとした。治療をやめて1年後に里子を迎え、後に特別養子
縁組をした


主な不妊治療
精子を子宮内に注入する人工授精
② 体外で卵子精子を受精させ、子宮内に戻す体外受精
③ 顕微操作で体外受精させる顕微授精などがある。



参考・引用
朝日新聞・朝刊 2016.8.4


<私的コメント>
体外受精と顕微授精はそれぞれ「受」と「授」