がん・動脈硬化と「テロメア」

生活習慣見直し 命の回数券守る がん・動脈硬化…関係深い「テロメア」 カギ握る運動や睡眠

体をつくる細胞の染色体の端にあり「命の回数券」ともいわれるテロメア
テロメアの状態が、がんや動脈硬化といった様々な病気に関係しており、生活習慣を見直すことでテロメアの状態を良好に保てることも分かってきた。
健康で長生きするためテロメアとどうつきあえばいいのか。

生物の遺伝情報が収納されている染色体DNAの両端はテロメアと呼ばれ、染色体を保護する役割を担っている。
細胞が分裂するたびにテロメアDNAは少しずつ短くなる。
これに伴って細胞分裂の回数が減り、やがて分裂しなくなる。
これが細胞の老化だ。
 
一方、生物はテロメアを再生する働きも備えている。
テロメラーゼという酵素が作用することで、テロメアDNAが作り出され伸長する。
皮膚や血管、血液など細胞の種類によって条件は異なるが、細胞分裂による「引き算」とテロメラーゼの働きによる「足し算」でテロメアの長さが決まる。
 
細胞分裂の回数には限りがあるため、テロメアは命の回数券とも呼ばれる。
テロメアの短縮と、がんや動脈硬化心筋梗塞認知症といった病気との関係が分かってきた。
細胞に酸化ストレスや有害物質が作用するとテロメアが短くなり、こうした病気にかかりやすくなるという。
 
例えば皮膚がんや肺がんの場合。日光を浴び過ぎたり、たばこを吸い過ぎたりすると、紫外線や有害物質の作用で細胞が傷つく。
細胞は新しくなるため活発に分裂するようになり、これに伴ってテロメアが短くなる。
 
テロメラーゼの働きが追いつかないと、細胞の中では染色体がテロメアを失って不安定になり、他の染色体とつながってしまったりする。
こうしてがんのリスクが高まる。アルコール性肝炎から肝硬変、肝臓がんへと進行するときもこうしたことが起こる。
 
いくつかのがんはこうしたメカニズムで説明できる。
日焼けや喫煙、過度の飲酒などで“回数券”を無駄遣いしないのがいい。
 
テロメアが短くなり、分裂しなくなった老化細胞からは、炎症の原因となるシグナルが出ることも分かっている。
炎症は糖尿病や心臓、脳など全身の様々な病気に関係しているといわれている。
 
テロメア研究の業績で2009年にノーベル生理学・医学賞を受賞したエリザベス・ブラックバーン博士らが、生活習慣とテロメアの関係についての研究成果をまとめた本を今年出版。
この分野への関心が高まっている。
 
ブラックバーン博士らが紹介しているのは「心理ストレスにさらされていないか」「睡眠を十分にとっているか」「適度な運動をしているか」「健全な食事をとっているか」といったこととテロメアの状態の関係だ。
 
睡眠に関しては、毎日5~6時間しか眠っていない高齢者のテロメアは短い傾向があるが、7時間以上睡眠をとっている高齢者の場合は、中年の人と同じかそれ以上の長さだった。
運動については、過去10年間、運動習慣のある人は、そうでない人と比べてテロメアが長かった。
 
特に強調しているのが、ストレスとの関係。
ストレスを除くのにマインドフルネスと呼ばれる瞑想が注目されているが、この瞑想をしたグループは、テロメアが伸びたという研究成果を紹介している。
 
適度な運動や適切な食生活、良質な睡眠、ストレスをためないことなどはいずれも健康・長寿の秘訣とされてきた。
テロメアに注目することで生活習慣と健康状態や病気との関係をより明確につかめそうだ。

 
イメージ 1


<病気リスクの診断に活用>
テロメアの状態を調べることで、その人の健康状態や病気のリスクを診断しようという試みが進んでいる。
広島大学ベンチャーのミルテルは、約3年前から病気のリスクを知ることができるテロメア検査を実施している。
 
ミルテルの検査の特徴は、テロメア自体の長さに加え、テロメアの先に「しっぽ」のように伸びているDNAの一本鎖「Gテール」の長さが測れること。
Gテールが長いほど、テロメアの強度が高くなる。
またGテールの短縮と、動脈硬化脳梗塞認知症などのリスクの相関が高いことが分かっている。
 
喫煙や不健全な食生活による酸化ストレスなどがGテールを短くする。
遺伝子年齢や疾患リスクを知ることができる。
リスクの高い人には医療機関が生活改善の指導をすることで、テロメアの状態の改善を促す。
 
検査は医療機関で受けられ、費用は3万~4万円。
広島大では小型の検査装置を開発中で、来年以降に導入されれば検査費用はかなり下
げられるという。

参考・引用
日経新聞・夕刊 2017.6.8