身長とがんのリスク

高身長ほどリスク高い

肥満は肝臓がん、大腸がん、乳がん、子宮体がん、膵臓がんなど多くのがんのリスクを高める。
そのことは比較的よく知られているが、身長が高くなるほどがんのリスクが高まることはあまり知られていない。

英国の中年女性約130万人を9年間追跡した結果でも、大腸がん、乳がん、子宮体がん、卵巣がん、腎臓がん、悪性黒色腫など10種類のがんで、身長が高いほどリスクが高まることが分かった。
身長が10センチメートル高くなるごとに、がん全体で16%リスクが高まった。
この関係は社会的・経済的状況に関わりなくみられたが、喫煙者では身長と発がんとの関連は見られなくなった。
身長の影響は喫煙と比べればずっと小さいからだ。

米国、欧州、韓国の男女を対象にした大規模調査の分析結果でも、身長が10センチ高いとがん発症リスクも10%上がることが示唆されている。
国立がん研究センターが日本人を対象に実施した疫学研究でも同様の結果が出ている。
1990年と93年にこの研究に登録した40~69歳の男女、約11万人を平均19年間にわたって追跡した。
男性は、身長が168センチ以上の群が160センチ未満の群よりがん全体の死亡リスクは17%高く、身長が5センチ高くなるごとに4%リスクが増加していた。

現在の日本男性の平均身長は40代で171.4センチ、50代でも169.8センチですから、高リスク群に属する人が多く、見過ごせない。
一方、日本人女性の場合、男性ほど身長によるリスクの差は見られなかった。
しかし、卵巣がんに限ると、身長156センチ以上の群は149センチ未満に比べて死亡リスクが2.2倍も上昇した。

身長が高くなるとがんのリスクが増える理由には諸説ある。一つは高身長の人は、細胞分裂を促進する「インスリン様成長因子」の値が高く、それががん化リスクにつながるとする説だ。
また、背の高い人ほど体内の細胞の数が多いため、突然変異を起こす候補の数も増えるからだという説もある。
体重と違い身長を変えることはできないが、禁煙などの生活習慣の方がはるかに大きな影響がある。
過度な心配は無用かも知れな。

執筆
東京大学病院准教授・中川恵一先生

参考・引用一部改変
日経新聞 2919.2.3


<関連サイト>
身長と死亡との関連について
https://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/8151.html
・成人の身長は、死亡リスクと関連があることが報告されており、欧米などの研究では、高身長ほどがんによる死亡リスクが高く、循環器疾患(心疾患や脳血管疾患)による死亡リスクが低いことが報告されている。

・今回の研究から、欧米などの研究結果と同様に、身長が高いと、がんによる死亡リスクが高くなり、脳血管疾患や呼吸器疾患による死亡のリスクが低くなることが、日本人男性においても確認された。

・一方で、身長が高い人で脳血管疾患(特に脳出血)や呼吸器疾患による死亡のリスクが低くなったが、そのメカニズムは、低身長に関連する幼少期の低栄養状態が血管内皮機能の低下により、循環器疾患のリスクを上げることや、高身長者の肺活量が多いことが呼吸器疾患に予防的に作用することなどが考えられる。