トキソプラズマ感染症

母子感染、早期治療に期待 トキソプラズマ 妊娠中にのむ薬、保険適用

妊婦が感染することで、赤ちゃんに目や耳の障害や発達の遅れなどが出る先天性トキソプラズマ症やサイトメガロウイルス感染症
昨年、治療薬や検査がそれぞれ公的医療保険の適用になった。
早期の治療や発見につながることが期待されている。

東京都内に住む30代の女性は妊娠4カ月だった1月、通っていた医療機関産婦人科で受けた血液検査で、トキソプラズマに感染していることがわかった。
 
詳しい検査を受けて感染時期を調べたところ、妊娠後の感染も疑われた。おなかの赤ちゃんへの感染を抑えるスピラマイシンという治療薬を1日3回2錠ずつのむことになった。
 
トキソプラズマ寄生虫の一種で、ネコのフンを通じて広がり、豚や馬、牛、鳥などに寄生する。
生や十分加熱していない肉を食べたり、土いじりしたりすることで人にも感染する。
 
予防には、
ガーデニングなどの際は手袋をつけ、土に触った後は手をよく洗う
▽ ネコのフンの処理は避ける
▽ 生肉を食べない
▽ 焼き物や揚げ物の肉でも食べる前に内部まで十分火が通っているか確認する
――などに気をつける必要がある。
 
感染しても首のリンパ節が腫れる程度で、症状がでないことも多い。
注意が必要なのは、妊娠中に初めて感染するケース。
胎盤を通じておなかの赤ちゃんにうつり、視力障害や発達の遅れなどを起こすほか、流産や死産になる恐れもある。
 
年間数百~千人の妊婦が初感染し、100人程度の赤ちゃんに感染。
うち重い症状の赤ちゃんは10人程度とされる。
 
妊婦を対象に感染歴を調べる抗体検査があり、妊婦健診を行う医療機関の半分程度が行っている。
 
治療にはこれまで公的医療保険がきく薬はなかったが、昨年8月、スピラマイシンが治療薬として初めて公的医療保険の適用となった。
妊娠中に感染したことがわかった後から出産までのみ続ける海外の研究では、この薬をのむと、のまない場合と比べ、重症の先天性トキソプラズマ症の赤ちゃんを7分の1に抑えられたという。
 
これまでは限られた施設でしか治療が受けられなかったが、公的医療保険が適用されたことで、広く治療が受けられるようになる。
 
女性は現在、妊娠8カ月を迎えたが、おなかの赤ちゃんに異常はみつかっていない。
検査で指摘されるまで、トキソプラズマについて知識はなかった。
感染原因は不明だが、妊娠がわかる前に生肉を食べたことはあったという。
薬は出産までのむ予定で、「おなかの子どもに感染せず、無事生まれてほしい」と話す。

サイトメガロウイルス 新生児検査も
先天性サイトメガロウイルス感染症も、妊娠中に感染すると赤ちゃんへの影響が懸念される病気だ。
 
サイトメガロウイルスは、唾液や尿などを通じて多くが子どものうちに感染する。
妊娠中でなければ感染しても問題はないが、妊婦の場合、赤ちゃんに難聴や発育の遅れ、肝機能障害、小頭症などの症状が出ることがある。
乳幼児から感染する場合が多く、上の子どもと食器を共有したり、食べ残しを食べたりして感染することが多い。
 
昨年1月、生まれた赤ちゃんが、このウイルスに感染しているか調べる検査が、公的医療保険の適用になった。
検査の対象は、母親が妊娠中に感染が疑われたり、おなかの中や生まれた直後に症状がみられたりした赤ちゃんで、生後3週間以内の尿を調べる。
 
症状のある赤ちゃんの治療には、公的医療保険の適用外だが、難聴などを改善する効果があるとされる抗ウイルス薬がある。
一方、感染しても症状が出ないことも多い。
 
検査で感染がわかれば、素早く治療やケアができる。
感染がわかっても過度に心配する必要はないが、不安であれば専門の医療機関に相談をしたい。

母子感染の専門家でつくる研究班のホームページでは、相談できる医療機関や、予防法を掲載している。
http://cmvtoxo.umin.jp/

参考・引用一部改変
朝日新聞・朝刊 2019.5.29


<関連サイト>
トキソプラズマの感染経路と治療薬
https://wordpress.com/post/aobazuku.wordpress.com/358