「百寿者」に学ぶ秘訣

ギネス記録では、確認できる史上最高齢者は1997年に122歳で亡くなった
南仏のジャンヌ・カルマンさんという女性だそうです。
意外と短いんです。
このカルマンさんは母が86歳、父が93歳と長寿だったようで、長寿者の多い家系が
示すように遺伝的要因は大きいといわれています。
100歳を超えて健康で活動的な『百寿者』は弱点がなく、全身がバランス良く老化
しているのが特徴。
糖尿病、心臓病など生活習慣病やがんを抱えていたら100歳までとても生きられません。
また『長寿遺伝子』も関係するとのことで、この長寿遺伝子の研究は世界中で急ピッチ
で進んでいる。

数年前、90歳以上の日本人は101万6000人と初めて100万人を突破。

このように20世紀に先進国で30年も平均寿命が延びたのは結核など感染症を克服した
からで、今は生活習慣病やがんの克服が課題です。

近い将来、遺伝的“スーパーエリート”でないと百寿者になれなかったのが、生命科学
発達で普通の人も100歳を超えて生きられる時代が来るともいわれています。

時を刻む人体
老化の原因となる「主犯」は活性酸素です。
この活性酸素は細胞内で呼吸やエネルギー生産を行うミトコンドリアで酸素が処理される
際に必ず生まれます。
DNAを傷つけ、体内の組織をサビ(酸化)させる元凶となり、動脈硬化や筋力低下を
まねきます。
このほか、ミトコンドリアの機能異常で細胞が自殺する場合など活性酸素によらない老化
もあるといわれています。
 
例えば皮膚や免疫系の細胞などの分裂回数には限界がある。
つまり物理的に寿命を決める“時計”があるのです。
遺伝子を含む染色体の両端がテロメアという特殊な構造になっていますが、分裂するほど
テロメアが短くなり、これがなくなると染色体に異常が起こり分裂できなくなるのです。

生体のリズムもあります。
象は約70年、ネズミは約3年が寿命だが、生涯の鼓動の数はともに約15億回でほぼ
等しいということがわかっています。
心臓の鼓動だけでなく排泄の回数についての研究もあります。
遺伝子研究に使う線虫の排せつ回数は生涯に約3万回。
人が1日1回排便して80歳まで生きると約3万回。
脳の視床下部にも老化時計があり、長いスパンで人間の体質変化を支配しているという
こともいわれてきています。

東京都老人総合研究所の白澤卓二研究部長は「老衰死というのは実はありません。
医者が直接の死因を特定できないだけで、本当はみな病気で死んでいる。ネズミは大半が
白血病で死にます。人間だと昔は感染症。今はがんや生活習慣病ですが、人生百年時代が
来たら別の病気が死因になるでしょう」と話しています。

さて積極的に寿命を延ばす方法はあるのでしょうか。
白澤部長によると、カロリー制限が有効とのことです。
原生動物から魚、ネズミまでダイエットすると寿命が1・4倍から2倍近く延びる。
「ネズミの筋肉を調べると、普通にエサを食べたマウスでは老化とともにDNAが壊れ、
エネルギー代謝も下がる。でもカロリー制限したマウスではそうした現象が見られません」。
中年以降急に太りだした人なら、学生時代の体重に戻せばいいという。

さらに生活環境や生きがいが大切のようです。
マウスは通常、狭いケージで4、5匹を飼育するが、運動できるよう回し車を置いたり、
広いケージにトンネルやボールなど遊び道具を置き、仲間の多くいる刺激的な環境だと、
脳の神経細胞が分裂して増え、神経細胞の寿命も長くなるというのです。

出典 毎日新聞 2005年9月9日
版権 毎日新聞社

動脈硬化や糖尿病 予防で長生きに

「誠実さ」など性格も影響
100歳以上まで長生きした「百寿者」は、戦後間もない1950年に全国で100人
程度だったが、2007年には3万2千人を突破した。
医療や栄養事情、衛生環境が向上したおかげだ。
百寿者を対象にした聞き取り調査から、健康で長生きする秘訣の一端が明らかになって
きた。

「遺伝的に特別でなくても、運が良ければ百歳までだれでもたどり着くことができる
だろう」。
慶応義塾大学病院の広瀬信義・老年内科診療部長はこう話す。
広瀬部長を中心とする「百寿者研究会」が約300人の百寿者を訪問調査し、導き出
した結論だ。

遺伝の関与は25%
長生きできるかどうかには2つの要素がかかわる。
生まれつきの遺伝的要素と、食事や運動などの生括習慣だ。
 
テレビで人気者になったきんさん・ぎんさんのように姉妹で百歳以上まで生きる人もいて、
長寿は遺伝に左右されると思いがち。
だが、女性に長寿が多いという点で性差の影響を受けるとされるが、遺伝的な要素は
それほど大きいわけではないようだ。
 
デンマークでの研究によると、人間が平均寿命まで生きるかどうかに遺伝が関与する割合
は25%前後。
百寿者になるともう少しこの比率は大きいとされるが、日々どう暮らすかが寿命を大きく
左右することは間違いない。

長生きしやすい生活習慣とはどのようなものだろうか。

広瀬部長らが国内の100歳以上の人々の病歴を調べたところ、いくつかの特徴が浮かび
上がった。
まず糖尿病の罹患(りかん)率が6%と、70歳代の平均(20-30%)と比べても
著しく低かった。
動脈硬化の人の割合も60%と、90歳代の平均(80%以上)を大きく下回ることが
分かった(グラフ1)。

カギを握ると考えられているのが「アデイボネクチン」だ。
脂肪細胞から分泌される生理活性物質で、動脈硬化や糖尿病を防ぐ効果があるとされる。
太って内臓脂肪が増えた人は分泌量が減ることが知られている。
百寿者は血中のアディボネクチン濃度が高い。
100歳以上の女性66人の血中濃度を20歳前後の女性と比べると、100歳以上の
ほうが2倍にもなっていた(グラフ2)。
イメージ 2

 
広瀬部長は 栄養不足になっては駄目だが、食べ過ぎを避けて腹八分目の食事を心がける
ことが長生きにもつながるだろう」とみている。

百寿者には性格にも共通点があるようだ。
研究会に参加する大阪大学の権藤恭之・准評授は、様々な質問に回答してもらい、性格を
「誠実性」「調和性」開放性」「外向性」「神経症傾向」の5つの要素に分類する調査を
した(図1)。「誠実性」「開放性」「外向性」の3つが高かった。
イメージ 1
 

ストレス耐性強く
誠実性の高い人はかかりつけ医の言いつけをきちんと守るなど、きちょうめんな性格が
健康によい働きをしているとみられている。
「外向性」は社交的な性格、「開放性」は若者文化など新しい価値観を受け入れやすい
性格を示す。
ストレスへの耐性も強いことが長寿につながっている可能性があるという。
 
性格を変えるのは難しいが「たばこは吸わない、医師の言いつけを守るなど、百寿者を
見習うと長生きにつながる可能性がある」(権藤准教授)。


ただ、長生きすると認知機能の衰えは避けがたい。
研究会の調査でも、認知機能に異常がない人の割合は男性36%、女性は20%で、
多くが認知症を抱えていた。
 
認知症については未解明な点「が多いが予防の手掛かりはある。魚に多く含まれるエイ
コサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)などの不飽和脂肪酸だ。

百寿者を「認知症ではない人」「中・軽度の認知症」「重度の認知症」に分けて血中の
EPA濃度を測定したところ、認知機能に異常のないグループは重度の認知症のグループ
と比べ、EPA濃度が3割ほど高かった
 
海外の研究には頻繁に図書館に出かけるなど、知的に暮らす高齢者ほど認知症になり
にくいとの報告もある。
 
食べ過ぎないよう心がけて健康に気を配り、なるべく頭を使う。
月並みだが、そんな小さな積み重ねが健康で長生きをする第一歩のようだ。    

出典 日経新聞・朝刊 2008.2.24
版権 朝日新聞社

<番外編>
がんワクチン臨床研究、6割に効果 膵臓・大腸がんなど
膵臓(すいぞう)がんなどを対象に全国10カ所以上の大学病院で行われている、がん
ワクチン臨床研究の中間的な解析が明らかになった。
従来の治療が効かなかった患者約80人の6割強で、がんの縮小や、一定期間悪化しない
などの効果があった。

札幌市で開催中の日本消化器外科学会で17日、東大医科学研究所ヒトゲノム解析
センターの中村祐輔教授が発表する。

対象は食道がん膵臓がん、大腸がん、膀胱(ぼうこう)がんなど10種以上で、
国内過去最大規模。研究を重ね、新薬の承認申請を目指した治験に入る。

がんワクチンを注射した82人について解析。進行・再発で標準的な治療法が無効だった
大腸がんで、27人中15人にがんの縮小やそれ以上進行しない効果があった。
膀胱がんでは6人中3人でがんの縮小が認められた。
膵臓がんでは抗がん剤との併用で利用したが、患者27人中18人で何らかの効果が
みられた。

82人の経過をみると50人でがんの縮小や、進行しない効果が認められた。
注射した部分が腫れたり硬くなったりする副作用はあったが、重い副作用はなかった
という。

がんワクチンは、がんに対する免疫反応を特に強め、やっつけるのが狙い。
中村教授らが人の全遺伝情報を調べ、がん細胞で活動しながら、正常細胞ではほとんど
働いていない遺伝子をみつけた。
その中から強い免疫反応を引き起こす17の抗原を特定し、複数のがんワクチンを作った。

がんワクチンは副作用が少なく通院治療ができるうえ、最近の抗がん剤より費用が低い
と期待されている。
開発は米国などが先行し、前立腺がんでは年内にも承認される見通し。

出典 朝日新聞・夕刊 2008.7.16
版権 朝日新聞社

<自遊時間>
先日、「風船爆弾」の話をとりあげました。
翌日、イベント企画が職業の40代の患者のBさんがみえました。

私「Bさんは、職業柄いろんな話に興味をお持ちのようなので豆知識を授けます」
Bさん「えっ、どんな話ですか」
私「コンニャク芋が兵器に使われたという話です」
Bさん「もしかして風船爆弾のことですか」
私(内心ギョッ)「すごいですね。あなたより年上の私が、やっときのう仕入れたばかり
のネタなんですよ」
Bさん「私たちの職業は雑学が必要で、仲間たちも雑学のかたまりみたいな連中ばかり
です」
私「恐れ入りました」

読んでいただいて有難うございます。
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