遠藤章氏にラスカー賞

米屋のカビから「世界一の薬」
http://blogs.yahoo.co.jp/ewsnoopy/archive/2008/08/08
で遠藤章先生を紹介しました。
きょうの朝刊でうれしい記事が出ていました。

高脂血症薬のスタチン 日本発「ノーベル賞級」の声価

青カビから発見 世界で3000万人服用

日本で見つかった物質が原型となり、世界に普及した高コレステロール血症(高脂血症
治療薬のスタチン。

発売から21年。今や動脈硬化などの予防で、毎日3000万人を超す患者が使う。
薬としての評価は高まり、スタチン開発はノーベル賞級の成果と注目されている。

最初のスタチンは、1973年、製薬大手「三共」(当時)の研究員だった遠藤章・東京
農工大名誉教授(74)が青カビから見つけた「ML―236B」(物質名=コンパクチン)。
留学先の米国で、高コレステロール血症と肥満によって心臓病で亡くなる患者を目の当たり
にした遠藤さんは、帰国後、コレステロール低下剤の開発を目指し、6000株を超える
菌類の中から2年かけて手にしたものだ。

体内のコレステロールの8割は、食べ物を材料に肝臓で何段階もの化学反応を経て合成される。
コンパクチンはこの合成過程初期に不可欠な酵素律速酵素)「ヒドロキシメチルグルタリル
(HMG)―CoA還元酵素」の働きを強力に抑える。
イメージ 1

律速酵素は、反応によってできる物質の全体の量を決める。
この酵素が阻害されるため、反応代謝物が作られず、コレステロール合成量が激減する。
同じく青カビから見つかり、感染症から人類を救ったペニシリンにちなんで「コレステロール
ペニシリン」と称賛される。

コンパクチン(別名メバスタチン)をもとに開発されたHMG―CoA還元酵素阻害剤はその後
も次々と登場。
薬剤名の末尾がすべてスタチンであったことから「スタチン」系薬剤として分類されるように
なった。

遠藤さんらはコンパクチンの実用化へ動物実験や治験を続けた。
だが毒性など壁に突き当たり3度の中止に見舞われ、結局、薬として日の目を見なかった。

一方、米製薬大手メルクは、78年に発見した第2のスタチン「ロバスタチン」の治験を進め、
87年に発売した。
遠藤さんは「困難への対処、結果の判断など日米の製薬企業の力量の差。順調にいけば84年に
発売できた」と振り返る。

その三共も2年後の89年、コンパクチンの一部を改造した「プラバスタチン」を世に送り出した。
これら治療薬は、従来にない劇的な効果を発揮、医療現場で広く使われるようになった。

スタチンは、筋肉への障害などが一部みられるが、比較的副作用は少ない。
90年代半ばには、悪玉コレステロール(LDL)を25~35%下げ、善玉コレステロール
を上昇させる薬効がほぼ確立した。
2005年、英医学誌ランセットは、14件の大規模調査をもとに「スタチンの投与は心臓病の
発症を抑制し、LDL値を約40下げると冠動脈疾患による死亡を19%減らす」とする分析
結果を掲載した。

コレステロール血症の診断基準を作成した寺本民生・帝京大医学部教授は「リスクの高い人
で30%も心臓病による死亡を減らすスタチンは画期的。
糖尿病、高血圧の薬でも死亡率の低下はここまで明確ではない。
医療経済の観点からも注目される薬」と強調する。

調査会社IMSによると、スタチンの昨年、世界での売上高は、約2兆6500億円。
06年の約3兆円をピークに減っているが、「特許が切れ、ジェネリック(後発)医薬品が
登場したため」(製薬関係者)とみられる。
メタボリック健診の普及で使用が広がる可能性は高い。
最近、骨折予防やウイルス抑制など様々な効果が報告され、「第二のアスピリン」(遠藤さん)
として万能薬の期待がある。

遠藤さんが発見したコンパクチンは、コレステロールが細胞にどう取り込まれるかなど基礎研究
にも大きく貢献した。
米国の博士2人は85年、ノーベル生理学・医学賞に輝いている。

出典 読売新聞 2008.9.14
版権 読売新聞社


イメージ 2

ラスカー賞に選ばれ、喜びを語る遠藤章氏=14日、東京・丸の内の東京商工会議所〔共同〕
http://www.nikkei.co.jp/news/shakai/20080915AT1G1400K14092008.html

<追加>
日本人の受賞は、花房秀三郎・米ロックフェラー大名誉教授、利根川進・米マサチューセッツ
工科大教授らに続いて5人目だが、臨床医学部門では初めて。
ノーベル賞にも近く、利根川氏はラスカー賞基礎医学部門の受賞者に選ばれた87年に
ノーベル医学・生理学賞を受賞している。
遠藤さんは、「夢がかなってうれしい。
野口英世ペニシリンを発見したフレミングのように、世の中に一つは役に立つことをしたい
と思ってきた。若い人の夢を広げられるように、80歳までは現役でがんばりたい」と話した。
Asahi.com
http://www.asahi.com/science/update/0914/TKY200809130230.html


<2008.11.22追加>
遠藤先生の言葉
■「日本人は既知のルートを効率よく登るのは得意だが未踏のルートに挑むのは苦手」
■かつて大学に会社のやり方を持ち込んだと非難され、テレビに出演して教授会で問題に
もされた。
今では新聞やテレビに登場することが業績の一部になるとも聞くが、こうした大学の
変わりぶりには一抹の不安を感じる。

読んでいただいて有難うございます。
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