別腹

『甘いものは別腹』ってよく使われる言葉です。
甘いもの大好きな女性に特に聞かれる言葉です。
本当に『別腹』ってあるのでしょうか?
きょうのテーマはこの『別腹』です。

別腹は最近の言葉

『別腹』は広辞苑に載っていない言葉です。
実は、別腹は最近の言葉で、あまり国語辞典にはのっていないようで1990年頃のグルメ
ブームの時代から使われて出してきたとのことです。

食欲と睡眠に関係する脳内ホルモン~オレキシン

オレキシン』という余り耳慣れない物質があります。
脳の中の視床下部というところに『摂食中枢』という食欲をコントロールするところが
あります。
オレキシンはここで産生され、脳のほかの部分に運ばれます。
範囲は広く小脳を除く脳の全域にわたっています。

特徴的なこととして、睡眠や覚醒の中枢にたくさん運ばれています。
つまりオレキシンは『パッチリ目がさめている状態にする』役割があるのです。逆に
オレキシンが不足すると寝てしまいます。
ナルコレプシー』という日中に突然深い眠りに入ってしまう病気があるのですが、
去年、この病気の治療にオレキノンが使えるというニュースがあったのは記憶に新しい
ところです。

つまり、昔はおなかがすいたら自分で食べ物を探して食べないといけなかったので、
おなかがすくと『目がさえてきて食べ物を探す』という図式が成り立っていたと思われ
ます。
オレキシンは、食事と睡眠をつないでいるホルモンといえます。

オレキシンが分泌される時

オレキシンはどんな時に分泌されるのかは現時点では不明な点も多い状態です。
まず、血糖値が低くなった時に分泌されます。
また血中の『レプチン』という物質の量にも影響されますし、その他の神経が出す物質
によっても複雑に制御されることがわかってきています。

<参考>
オレキシンと同じように脳細胞から分泌されて食欲を促進する物質には、ニューロペプ
チドY AgRP(agouti related hormone) オレキノン(orexin) メラニン凝集ホルモン
(melanin concentrating hormone オピオイドペプチドがあり、その他の場所では胃
から分泌されるグレリンがあります。 

1998年にオレキシンが発見されるまでは『脳内食欲亢進物質』としては神経ペプチドY
というものが有名でした。
しかし最近では、『脳内食欲亢進物質』はひとつではなくて、複数の物質が相互に関係
しながら食欲を調節しているといわれるようになりました。
逆にこういった複数の物質のバランスが乱れると食べ過ぎがおこって肥満になるとも
いわれています。

別腹をつくるオレキノンの働き

オレキノンはラットの脳に投与すると、胃を緩めて小腸に内容物を送り出すことによって、
内容物の充満した胃に新たなスペースを作るといわれています。
つまりは『別腹』スペースが本当に作られるわけです。

オレキノンは血糖値が低い時に分泌されます。
しかしそれ以外にも『これはおいしそうなものだ』と思うだけでも分泌されるといわれて
います。

これが『別腹の正体』なのでは、というのが最近の説です。

つまり、人間は胃がいっぱいになり、血糖値が高くなると満腹を感じますが、それでも
『実際には満腹なのに、脳が食べたいと判断した』という理由で食べることができる!
ということなのですね。

<追加>
別腹には2種類ある「よう」です。
1つは感覚的なものでもう1つは物理的な空きの出る仕組みです。

まずは感覚的なもの。
同じものをずっと食べ続けると、飽きてしまって「もう、おなかいっぱい」と感じること
があります。
専門的には「感覚特異性満腹」といいます。
そんなときでも、違う食べ物が出たら、また、食べ続けることが出来ます。
世に言う「お口直し」です。

もう1つの物理的な仕組み。
オレキノンというホルモンの働きで、満腹の胃に、新しいゆとりができるというものです。

<参考および引用サイト>
お腹いっぱいでも甘~いデザートは入るのはなぜ? 甘いものは『別腹』ってホント?
http://allabout.co.jp/health/womenshealth/closeup/CU20041011A/index.htm

<関連サイト>
別腹のメカニズム
http://diet-10a.com/special-stomach.html
オレキシンについて詳しく解説されています)

イメージ 2

出典 朝日新聞・夕刊 2009.2.9 「食の健康学 『別腹』は本当にある」
版権 朝日新聞社

<追加>
■西洋料理のデザートの誕生は、食事が肉や魚が中心でエネルギーとなる炭水化物
が少ないからという考えからという説があります。
一方、和食は食事の中で充分に炭水化物がとれています。
したがってデザートをとるなら、ご飯や麺の量を前もって調整しないと炭水化物
の取り過ぎになってしまいます。

■『オレキシン』の分泌を抑えるとダイエットすることができます。
この分泌を抑えるには、極端な血糖値の低下を回避する工夫がよいようです。
小分けで少量の食事を行い、なおかつ夜遅く食べることを止めれば、ダイエット
できます。
それ以外に『食の絶対量』を減少させることは最重要です。

■英語ではcake holeとかdessert stomachというようです。

■甘いものを見ると、おいしそうだなとか食べれたら幸福だなとかいう考えを認識
する脳内の神経伝達物質βエンドルフィンが分泌されます。
次にそれを食べようと意欲を出すドーパミンが分泌され、その後にオレキシン
分泌されます。
このオレキシンが胃に本当に“あきスペース”ができるように作用します。
つまり胃の中に甘いものを取り込むことができるスペースすなわち別腹が実際に
できるというわけです。


<番外編>
中国の強壮剤で意識障害 6日間入院、7倍超の成分
静岡市は、40代の男性が渡航先の中国で入手した、国内で承認されていない中国製
強壮剤「性欲王」を帰国後に服用し、低血糖による意識障害を起こしたと発表した。
男性は6日間入院し回復したという。
回収した1錠から、1日の最大使用量の7倍を超える医薬品成分「グリベンクラミド
などが検出された。
重大な健康被害を起こす恐れがあるとして注意喚起し、厚生労働省などに連絡した。
http://www.excite.co.jp/News/society/20090212/Kyodo_OT_CO2009021201000892.html
excite.ニュース 2009.2.12
<コメント>
強壮剤に経口糖尿病薬グリベンクラミドがどうして入っていたか不思議です。
以前、糖尿病の漢方薬を中国で買って来たという方のビンの成分表示にグリベンクラミド
が書かれていて思わず笑ってしまったことがありました。


読んでいただいて有難うございます。
コメントをお待ちしています。
井蛙内科開業医/診療録(3)
http://wellfrog3.exblog.jp/
(H20.12.11~)
井蛙内科開業医/診療録(2)
http://wellfrog2.exblog.jp/
(~H20.12.10)
井蛙内科開業医/診療録 
http://wellfrog.exblog.jp/
(~H20.5.21)
(いずれも内科専門医向けのブログです)
葦の髄から循環器の世界をのぞく
http://blog.m3.com/reed/
(循環器専門医向けのブログです)