おなか出てなくても心筋梗塞や脳卒中

ちょっと前の3月の新聞記事の紹介です。
「メタボ健診」の診断基準を巡っては当初から腹囲(ウエスト)測定の是非やその数値について異論を唱える声が絶えなませんでした。

厚労省研究班 メタボ健診の基準検証
おなかのサイズが大きくてもそうでなくても、血圧や血糖値などで異常が重なればメタボリック症候群と同じように心筋梗塞脳卒中を引き起こすリスクが高まることがわかった。
メタボ検診の基準を検証している厚生労働省の研究班(研究代表者=門脇孝・東京大教授)が11日、解析結果をまとめた。
腹が出ていない人たちの対策も進めるように提言を報告書を盛り込む。
将来の基準に反映される見通しだ。

日本の今の基準は、腹囲が男性85cm以上、女性90cm以上であるのが第一条件。
そのうえで血圧や血糖、脂質の検査値が以上が二つ以上あると「メタボ」と認定する。

研究班は全国の40~74歳の男女約3万人を対象に腹囲が基準を満たした場合と満たさない場合とで調べた。
すると、腹囲が基準に達しない場合でも、検査値の以上が増えるに連れて心筋梗塞などの発症リスクが増えていた。
女性で発症した506人のうち、半数以上は腹囲が基準より小さく、何らかの検査値以上をかかえていた。

特定検診では、メタボに該当するか、予備群とされた人に対して特定保健指導をする。
ただ、やせていて血圧や血糖値が高い人はとりわけ日本に多く、死亡リスクも高いと指摘されていた。

海外では昨年10月、国際糖尿病連合などで「腹囲を必須条件としてない」とする世界的な統一基準をつくった。
門脇教授は「やせることで効果的に病気を予防できるような人を見つける点で、いまのメタボ基準にも意味がある」とはなす。

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出典 朝日新聞・朝刊 2010.3.12
版権 朝日新聞社


<関連サイト>
メタボ健診、有用性は確認 なお揺れる女性90センチ基準
http://www.nikkei.com/life/health/article/g=96958A96889DE2E5E6E0E1E1E7E2E3E6E2E7E0E2E3E29F88E6E2E2E2;p=9694E0E4E3E0E0E2E2EBE1E3E2E3
厚生労働省研究班はメタボ基準を検証するため、12の疫学調査を解析、月内をメドに最終報告書にまとめる。
主任研究者の門脇孝東京大教授は「現在のメタボ基準の妥当性は裏付けられた」としているが……。
■ただ、「体の小さな女性の方が腹囲基準が大きいのはなぜか」「身長、体重を考慮せずに腹囲だけで肥満を判定するのはおかしくないか」といった、素人目にも首をかしげたくなる疑問がいくつか浮上。
限られた研究データから診断基準が作られた経緯もあって、「特定健診・特定保健指導(いわゆるメタボ健診)」が2008年春からスタートすることが決まると、専門家の間で論争が巻き起こった。

厚労省研究班は1980年代から90年代に実施された全国12のコホート(集団)研究のデータを統合して解析した。40~74歳の男性約1万7千人、女性1万9千人が対象になっている。
まず、腹囲と、血圧、血糖、脂質の3検査値との関係をみてみよう。男女とも腹囲が大きくなると、検査値が異常になる割合も増えていく。男性の場合は「80~85センチ」で、女性だと「85~90センチ」で、平均1つ、検査値が「問題あり」だった(グラフ(1)参照)。

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■腹囲が大きいと心筋梗塞などを発症する危険性が高くなることもわかった。
男女とも90センチ以上の人は70センチ未満の人に比べて発症リスクが2倍以上だった。
「85~90センチ」の人のリスクが「80~85センチ」を下回るなどデータにばらつきもみられた(グラフ(2)参照)。
虚血性心疾患を発症した人だけで解析しており、データ数が少ないことが原因のようだ。
約3年かけて解析した今回の疫学調査

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■門脇教授は「内臓脂肪の蓄積を病態の基盤とし予防医学的にここに介入して虚血性心疾患の発症を減らすという、メタボ健診の有用性は立証された」と総括する。

■ただ、女性の場合、腹囲にばらつきが目立ち、採用する解析手法によっては「80~90センチ」の人にも潜在的リスクが高いことが判明した。
今後、「80~90センチ」の女性を「(正常と異常との)境界型」として位置付ける見通しだ。診断基準がこのように変更になると、健診現場が混乱する可能性も否めない。


腹囲が正常でも、3検査値の異常が累積すると、その分、心筋梗塞などの発症リスクが高くなることもわかった。腹囲偏重に警鐘を鳴らす専門家らがもともと指摘していた問題点で、「太っていなければ大丈夫」という誤解を解く対策も必要になってくる。

■研究班はさらに今後5年間かけて、メタボの解消が心筋梗塞などの発症・死亡減にどの程度効果的につながっていくのかなど、より詳細な調査研究を進めていくという。

以下は日経新聞のコメント  問題決着にはデータ不十分
■先進国をみても国の主導で予防医療を成功させた例はあまりなく、制度設計が拙速だったこともあり、専門家から批判が続いた。

■今回の大規模解析結果で、「太りすぎは体によくない。放っておくと将来、心筋梗塞(こうそく)などに見舞われやすくなる」ということは改めて確認されたといえる。
ただ、国際基準に照らすと異例な「腹囲最優先」など、疑問視されてきた問題に決着をつけるにはまだデータが不十分。

■メタボ基準の腹囲の位置付けやその基準値設定について、研究班も「今回示された科学的根拠に加え、社会的な医療資源も勘案しながら、予防学的見地から決めるべきだ」との見解を示した。

■メタボ健診批判の急先鋒(せんぽう)に立つ東海大学医学部の大櫛陽一教授は「予防医療を推し進めるのなら、(メタボ健診の対象となる)40~74歳の疾病構造や医療費をきちんと分析した上で、実施すべきだ」と話している。
出典 日経新聞・朝刊 2010.5.16
版権 日経新聞

<コメント>
実は文中の門脇教授の講演会に前月にお4月に出席しました。
その際、私は腹囲基準の問題点について質問しました。
この記事の中にあるように、身長を考慮しない腹囲基準の矛盾点について「諸外国では身長を2で割った数値を腹囲としている場合がある」「ウエスト・ヒップ比が、より内臓肥満を表現する」といいましたが、「何よりも腹囲を測定するという単純な方法で内臓肥満を検出出来るというデータがある」という回答でした。
そこにはあまり科学者としての「思考回路」は見出せんでした。

また門脇教授は、他国で腹囲基準が必須条件でなくなっている傾向について大いに不満であると言ってみえました。

このメタボ健診は、当時の大阪大学の某教授が主導し、現在は東大教授は研究班の研究代表になっています。

みなさんは森鴎外高木兼寛の論争をご存知ですか。

脚気と悪者森鴎外
http://homepage3.nifty.com/ymorita/neta5.htm
森鴎外vs 高木兼寛 …脚気をめぐる論争の中で
http://tahyuka.hp.infoseek.co.jp/rekishi-takagikanehiro.html
脚気をめぐる話題:森鴎外の傲慢さ、高木兼寛の科学性合理性
http://hranmu.spaces.live.com/Blog/cns!F6D2A9D447E0DCE9!436.entry
人はどこまで悪魔になれるか: 高木兼寛森林太郎(鴎外)を論破できなかつた理由
http://ch12200.kitaguni.tv/e248505.html

東海大学医学部の大櫛陽一教授は、ひょっとして現代の「高木兼寛」かも知れません。


今回のメタボ健診の一番の弊害は、従来住民健診で行われていた胸部レントゲンや心電図や貧血検査が除外され一般健診としては不十分なものとなってしまったことです。
高齢者に対するメタボ健診は意味をなしません。
栄養過多よりむしろ栄養失調が心配で、貧血の項目のない高齢者の健診は怖いものがあります。

メタボ健診自体も肥満者の受診はほとんどありません。
多くの方は「メタボには該当しません」という結果で、メタボの診断基準にないLDLコレステロールだけが高値という方が多いという皮肉な結果となっています。

先程触れた講演で門脇教授は、メタボ健診にLDLコレステロールの項目が入っているのは大英断といっていました。
私達、最前線は却って迷惑しています。
この項目が入っているがためにメタボ健診でなくなるためです。
患者さんへの説明にも手間がかかります。

メタボ健診はあまりにも領域の限られた守備範囲の狭い健診であり、多くの疾患の見逃しが出る健診です。





読んでいただいて有難うございます。
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