人工生命の誕生

#人工生命、完成見えた 米研究所、ゲノム合成し人工細菌
自己増殖をする「人工細菌」を作ることに、米のチームが初めて成功した。
DNAをつないで、ゲノム(全遺伝情報)を人工的に作った。
生命の設計図であるゲノムが働くことが確認でき、「人工生命」ともいえる成果だ。
医薬品づくりなどに役立つ技術と期待される一方で、安全性の確保や悪用防止が課題になる。
生命とは何かを問うことにもつながりそうだ。

作ったのは、人間のゲノム解読に携わったクレイグ・ベンター博士が代表を務める研究所のチーム。
遺伝情報にあたる塩基配列が少なく、操作しやすい「マイコプラズマ・マイコイデス」という細菌をモデルにした。

この細菌のゲノムをまねて、ゲノムを構成するDNAの断片を化学合成した。
これを大腸菌などの中で1本につなげて、人工ゲノムを作った。
この人工ゲノムを、ゲノムを除いた別種の細菌の細胞膜を器にして、移植した。

人工ゲノムは14の遺伝子が欠けていたものの、「人工細菌」は、モデルにした細菌と同じたんぱく質を作り、自己増殖を繰り返すことも確認できたという。

この成果は、21日付の米科学誌サイエンス電子版で発表される。

<解説> ゲノム
生物のすべての遺伝情報をゲノムという。
情報が刻まれている物質がDNAで、複数の化学物質(塩基)が連なってできている。
塩基のつながりの中にある特定の部分が、体を構成する様々なたんぱく質を作る遺伝子として働く。


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出典 朝日新聞・朝刊 2010.5.21
版権 朝日新聞社


<コメント>
ウイルスを人工的に作った例はありますが、ゲノムがより複雑な細菌での成功は世界初ということです。
細胞膜や細胞内の物質は人工合成していないため完全な「人工生命」ではありませんが、その実現に近づく画期的技術と言えます。
このチームは今後、バイオ燃料を製造したり、有害物質を分解したりする有用な微生物作成を試みたいとしています。
問題点としては、人工的な生物を環境中で利用した場合、ほかの生物や自然環境にどのような影響を与えるのか未解明な点であること。
そして生物兵器開発に利用される恐れも指摘されています。


以下は、補足です。

チームは、マイコイデスのゲノムの設計図を基に1000塩基対程度の短い情報を持ったDNAの断片を化学的に合成。
さらに、DNA断片を大腸菌酵母菌に組み込んでつなぎ合わせ、完全なゲノムを合成した。
次に「マイコプラズマカプリコルム」という別の細菌を特殊な液体に入れて本来のゲノムを失わせ、そこに合成ゲノムを移植。
すると、カプリコルムの細胞内で合成ゲノムが働き始め、細胞の自己複製が始まった。
また、この細菌の外見は正常なマイコイデスに似ていたほか、マイコイデスと同じたんぱく質しか生成しなかったという。

ベンター博士は、ヒトゲノム解読で国際共同チームと競ったことで有名な科学者。





<関連サイト>
記事 : 生命を作り出すためにはより多くの遺伝子が必要だ 
http://www.mypress.jp/v2_writers/beep/story/?story_id=1376387