デバイスラグ

「デバイスラグ」という言葉をご存知ですか。
バイスは「医療機器」、ラグはタイムラグつまり「時間差」のことです。
日本の医療現場ではCT(コンピューター断層撮影装置)やMRI(磁気共鳴画像装置)などの最先端医療検査機器が導入されています。
しかし、ペースメーカーなど体内に埋め込むような医療(治療)機器では型遅れの機種しか出回っていません。
そして国産の機器はほとんどありません。
具体的にはペースメーカーはほとんどが外国製で、欧米では日本よりも3世代ほど先行している、つまり日本はそれだけ遅れているようです。
医療機器を日本に導入する際、海外で安全性が認められたものでも、再度(過剰といってもよい)きわめて厳重なチェックが行われます。
血管や臓器の大きさなど欧米とは人種差があることなどが理由といわれています
 
審査機関は、厚生労働省が所管する独立行政法人医薬品医療機器総合機構などで、厚労相の認定が必要なものについては薬事・食品衛生審議会で審議・答申が行われます。


週刊朝日」2010.8.27に「医療後進国 ニッポン・前編」(米国ルポ)が掲載されています。
サブタイトルは「技術大国・日本の医療機器は時代遅れ?」です。



使える医療機器は欧米の半分 薬だけではないもう一つの時間差「デバイス・ラグ」

海外で使われている医薬品が、日本で使えない「ドラッグ・ラグ」の解消に向けた動きが進む中、日本の医療現場は「デバイス(医療機器)・ラグ」というもう一つのラグ(時間差)を抱えている。
海外で使われている医療機器も、国内で承認されるまでに時間がかかるからだ。
欧米で使われている医療機器の半分が日本では導入されていない。
このため欧米では当たり前の治療が、日本人には施されない実態がある。
 
厚生労働省によると、日本は米国に比べ、医療機器が承認されるまでの期間が平均1年7カ月(平成17年度)も遅い。
 
バイス・ラグが原因で欧米に大きく後れを取ったのが、腹部大動脈瘤の治療だ。
血管の一部が動脈硬化によりふくれ、破裂すると、高い確率で死亡する病気で、従来は、腹部を切り開き、大動脈を人工血管に換える手術が主流だった。
 
だが、欧米では約10年前から、足の付け根の動脈からステントグラフト(バネ状の金属を取り付けた人工血管)を挿入する治療法が普及している。
開腹手術に比べ、患者への負担が軽減されるためだ。
このステントグラフトが欧州で承認されたのは平成9(1997)年。
米国も2年後に追随したが、日本で承認されたのは18年になってからだ。
 
米国の大学病院でも外科学教授を務める東京慈恵医大病院の大木隆生教授は「命にかかわる医療機器の迅速導入は必要」と訴える。

■「小さい市場規模」
厚労省も、ただ手をこまねいているわけではない。
平成21年度から5カ年計画で、審査を担当する人員を48人から104人に増強、承認期間も米国並みに短縮する方針だ。
ただ、日本の審査基準は欧州に比べて厳しい。
海外で安全性が確認されても、人体へのリスクが大きい機器では治験が求められ、メーカー側にとって負担となっている。
 
「市場規模が小さいこともラグの要因」とする指摘もある。
世界の医療機器市場(17年度)で米国は42%、欧州も34%を占めるが、日本はわずか10%。
 
米国も厳しい審査基準を設けているが、市場のスケールメリットがあり、メーカーの市場参入は活発だ。
 
在日米国商工会議所が平成20年、欧米のメーカー43社を対象に実施した調査によると、日本で使える欧米製医療機器の製品数を1とした場合、欧州は2、米国は2.1。
日本で使える製品数は欧米の半分に過ぎない。

■「合理的に承認を」
米国医療機器・IVD工業会のケイミン・ワング顧問は「ラグ解消には、より合理的な承認システムが必要だ」と指摘する。
 
民間団体「薬害オンブズパースン会議」によると、視力矯正など自由診療分野では、医師が未承認機器を個人輸入して使っているケースが増えているという。
 
同会議代表の鈴木利広弁護士は「海外で安全性が確認されていても、日本政府が求める基準に適合しているかが確認されていない未承認医療機器を使うことは薬事法の趣旨に反する。薬事法が骨抜きにされないためにも、厚労省は実態調査を行うべきだ」と話し、厚労省に要望書を提出する方針という。


<私的コメント>
バイスラグのために医療機器メーカーは、日本市場向けに古い機種を小ロットで生産し続けたり、古い在庫を確保する必要があり、余分な費用がかかります。
日本での医療機器価格は欧米より高いとの批判がありますが、メーカー側は「原因の一端はデバイスラグ」と指摘しています。
最新の医療機器の導入と医療機器価格の引き下げは国民の誰もが望むところです。

文中に「厚労省もは平成21年度から5カ年計画で、審査を担当する人員を増強」と書かれています。
審査や許認可の簡素化を考えずに、人員を増やす(税金をより多く使う)という発想しか出来ないことは実に悲しいことです。




<デバイスラグ 関連サイト>
バイスラグと保険償還価格の問題が医療技術のジャパンパッシングを生む。
http://www.innervision.co.jp/12SP/interview/vol009/index.html
バイスラグ:日本の医療機器メーカーは生き残れるか?
http://skyteam.iza.ne.jp/blog/entry/743279/
バイスラグを放置する行政&団体を許すべからず
http://blog.m3.com/TL/20100403/1
バイス・ラグ解消に大幅な規制緩和を! 医療機器承認体制
http://www.pjnews.net/news/535/20100419_8



<自遊時間>
J・キャメロン監督、誕生日に世界最深のバイカル湖潜水
http://jp.reuters.com/article/entertainmentNews/idJPJAPAN-16810120100817
■映画「タイタニック」などで知られるジェームズ・キャメロン監督が16日、世界一深いロシアのバイカル湖潜水艇「ミール1」で潜水し、自身の56歳の誕生日を祝った。
■キャメロン監督が乗り込んだ全長約8メートルの「ミール1」は、「タイタニック」の製作準備で使用された2艇のうちの1つ。
ロシアは2007年、この潜水艇で北極点に近い海底にロシア国旗を立てている。
■世界で最も深いとされるバイカル湖は2500万年前から存在し、最大水深は1637メートル。
生態学者によると、1500種類の動植物が生息しているという。
■キャメロン監督は、北大西洋に沈んだタイタニックを撮影したいという思いから、映画の製作を提案したというほど深海好きとして知られる。

<私的コメント>
ちなみに日本で一番深い湖は、秋田県田沢湖です。
奥羽山脈の近くにあるにも関わらず、湖の底は海面よりも深い所にあるというから驚きです。
少し調べてみたら423.4m。
これでもバイカル湖にははるか敵いません。
それにしても、キャメロン監督の趣味はこれだったんですね。
きっと臨死体験が出来るのではないでしょうか。
私も、最近動画でバイクで時速300km超で公道を走る(いけない)シーン(ライダー目線で録画)を見ました。
これも、ある種の臨死体験です。


読んでいただいて有難うございます。
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