髄膜炎菌、身近に生息

膜炎菌、身近に生息 重症の恐れ

宮崎県で5月、髄膜炎の集団感染が発生して死亡者も出た。
原因となった髄膜炎菌は人の鼻や喉に広く生息するものの、年間の発症者は数十人程度にとどまり命を落とすケースはまれだ。
ただ、細菌が原因の髄膜炎は重症化する場合もあり、発熱が長時間続くなど体調がおかしいと思ったら、医療機関を受診すべきだと専門家は指摘する。

宮崎県の集団感染は高校の寮で生活していた野球部員らの間で発生した。
亡くなった1年の男子生徒は体調不良を訴え部活動を休んだが、寮の食堂で倒れ病院に搬送。
腎臓機能などが低下して助からなかった。
血液から髄膜炎菌感染の目印となる抗原が検出され、菌が原因となった髄膜炎を発症し、急激に症状が悪化したとみられている。

県などの調査で、同じ寮に住む生徒や調理担当の女性ら計8人から髄膜炎菌が見つかり6人が入院。
このうち死亡した生徒も含め3人が髄膜炎にかかっていた。
発症者が増えるのを防ぐため寮の生徒らに予防的に薬も投与。
集団発生は現在では終息している。

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菌の血液混入怖い
髄膜炎は、脳や脊髄を覆う髄膜に細菌やウイルスなどが入り込んで増え、炎症が起こる。

発熱と頭痛、嘔吐(おうと)などの症状が出るほか、首のうしろが硬くなって曲がりにくくなる。
髄膜炎菌やヘモフィルスインフルエンザ菌b型(Hib)、肺炎球菌など細菌が原因となるケースは、ウイルスによる髄膜炎に比べて症状が重くなりやすい。
菌が血液に入り様々な臓器の機能が低下する敗血症になり、髄膜炎を発症する。
意識障害などを起こして死亡する例も少なくない。
治っても難聴などの後遺症が出ることがある。

髄膜炎菌が原因となった髄膜炎の国内患者は30年以上、年間30人未満の状態が続いている。
第2次世界大戦後の直後は4000人を超えたが、その後急減した。
年齢別では0歳児がやや多いが、すべての年代で患者がみられる。

海外ではアフリカのサハラ砂漠以南に患者が多発する「髄膜炎ベルト地帯」があり、欧米諸国も日本より患者が多い。

米国で小児感染症の専門医として10年以上働いた国立成育医療研究センターの斎藤昭彦医長は「(米国では)平均すると月に約1人のペースで患者を診察したが、日本では診たことがない」と話す。
英国では5人に1人がこの菌の保菌者とされる。

日本では1%未満にとどまるというデータもあるが、少ない理由は分かっていない。
国立感染症研究所感染症情報センターの谷口清州第一室長は「今回の集団感染は、たまたま宮崎で起こった。頻度は少ないがどこでも起こる可能性はある」と話す。

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髄膜炎菌にはワクチンが既に開発され海外で普及しているが、国内では未導入。
「患者数が少ないことも影響している」(谷口室長)。
同じ細菌性髄膜炎でもHibや肺炎球菌は、国が乳幼児のワクチン接種費用を補助する制度を始めた。髄膜炎はHibが原因の患者は5歳未満の10万人当たり約8人、肺炎球菌は同約3人で、専門家はワクチン接種を強く勧めている。

髄膜炎菌は人の鼻や喉でしか生存できない。
家庭内、同じ寮での生活、喫煙などが感染リスクで、くしゃみやおしゃべり、せき、キスなどで人から人へ感染するが、環境に弱く乾燥した場所ではすぐ死滅してしまう。
「濃厚な接触がないと感染しない。短時間の会話でうつったり、食事に菌が付いて感染したりすることはない」(谷口室長)

感染しても鼻や喉にいる限りは問題なく、健康な保菌者の状態が続いた後消滅し、ほとんど発症することはない。
ただ、まれに保菌者の中で血液に菌が入りこむと、敗血症や髄膜炎を発症する。
髄膜炎患者の約1割が死亡する。敗血症では最大で約4割が亡くなるという。


治療は抗生物質
治療の基本は抗生物質の投与。
「一般的な抗菌薬が使え効果も高いが、できるだけ早く投与するのが大切」(斎藤医長)。
あっという間に悪化する劇症型では、1日以内で亡くなるケースもあるので早期発見が重要だ。

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「いつもと調子が違うという感覚を見逃さないように」と専門家は口をそろえる。
乳幼児の場合は発熱が続く、何度ももどす、遊ばない、ミルクの減り具合がいつもより極端に遅いといったサインに気をつける。
髄膜炎でなくても何らかの病気が隠れている可能性がある。
髄膜炎では首のうしろが硬くなる症状も出るので、だっこをすると痛みを感じ、子どもが泣き続けるケースもあり、サインの一つになる。

髄膜炎菌はずっと人間と共存してきた。
日本ではまれだが、この菌による髄膜炎発症を完全に防ぐことは難しい。
手洗いなど基本的な感染症の予防策をしっかりやり、何か気がかりなことがあったら、すぐ医療機関を受診することが大切だ。
(長谷川章)
出典 日経新聞・夕刊 2011.6.25
版権 日経新聞


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