耳そうじ

耳そうじ、意外な落とし穴   奥まで」「ガリガリ」「やりすぎ」NG

耳かきで耳穴を探る――。江戸時代から耳あか取りの専門業者がいたというほど、耳かき好きな日本人。
だが、そこには意外な落とし穴もある。

普通は必要なし
普通の状態なら耳かきは必要ない。

耳あかは、耳の入り口から鼓膜までの外耳道のうち耳たぶに近い軟骨部の皮膚の表皮がはがれ、耳垢(じこう)腺や皮脂腺からの分泌液や、外からのちり・ほこりが混じり合ったものだ。

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通常は皮膚の自浄作用により自然と外へ排出されるので、特に耳かきはしなくていい。
しかも耳あかには殺菌作用や外耳道の皮膚の保護、虫などの侵入防御など、重要な働きもある。
むやみに除去するのは考えもの。

だが、中には耳あかがたまりやすい人もいる。
1カ月で鼓膜が見えなくなるようなケースもあるそうだ。
外耳道が耳あかで完全にふさがってしまうと、閉塞感や難聴などが起こる。
また、急性や慢性の中耳炎などの疾患が耳あかで隠され、診断が遅れたり治療の妨げになったりすることもあるので、普段から鼓膜が見える程度にしておくことが重要だ。

もっとも自分では鼓膜の状態は見えないので、1カ月ほど放置して耳の中がガサゴソしたり閉塞感があったりするようなら“耳掃除どき”。
ただし、自分で耳掃除をする際には、十分な注意が必要だ。やみくもに耳かきをすると、かえって外耳道を傷める結果となる。

みみかきの注意点として3つ挙げられる。

まず耳穴の掃除は、あかが存在する軟骨部まで。それ以上奥は進入禁止だ。
目安としては小指のつめが入るくらい。
入り口からほんの5ミリくらいの所までで十分。
軟骨部の奥の骨部は、骨の上に薄い膜が張り付いただけの状態だ。
非常に敏感で、こすると痛みが走る。

次に掃除の仕方。
ベビー用綿棒で1~2回軽く円を描く程度でいい。
普通の綿棒は太すぎて、耳あかを奥に押し込む結果になるので、必ずベビー用綿棒を使う。
風呂上がりだと耳の中も湿っていて取りやすい。

耳かきを使う場合は、綿棒以上に優しくなでるようにする。
耳かきを使いたいという人には、先が3連のループ(輪)状になったものがいい。
弾力のあるループが柔らかく、素人でも扱いやすい。


擦り傷で湿疹も
最後に何より重要なのが“やりすぎない”こと。
耳かきをしすぎて出血し、かさぶたになったころ、かゆみを感じてまたガリガリ
それで出血を繰り返すという人もいる。

また、耳かきによる擦り傷で皮膚や粘膜がただれて湿疹状になると、かゆくていじり、一層ただれるという悪循環になりやすい。
耳だれが耳あかと相まって、余計に耳あかが増えてしまう。

さらに、手に付着している黄色ブドウ状球菌などが、傷付いた部分から感染し、おできができて痛む場合もある。

湿疹状態が長引くと、空中に舞うカビがすみ着いてしまうことも。
こうなると厄介だ。
週に何回もの通院が必要になる。
かゆみがひどくて、耳あかに黒っぽいものが混じり悪臭がするようなら、カビが疑われる。

耳掃除のしすぎによる弊害は大きい。
軟骨部を一度軽く掃除して、それでもガサゴソしたり閉塞感があるなど違和感が消えないようなら、耳鼻科を受診した方がいい。
簡単な耳あか除去だけなら1~2分で終わる。健康保険も利き、処置料25点なので自己負担額は3割の場合で75円。
外耳道が耳あかで完全にふさがってしまった場合でも同300円で済む。

子どもに耳掃除をしてやる場合も、同様の注意が必要だが、特に周囲に人などがいないことを確認しておく。
ぶつかった拍子に手元がぶれ、子どもの鼓膜を傷つけることを防ぐためだ。

また、「子どもの場合は、耳かきではなく必ずベビー用綿棒で」と神尾院長。明るい所で、耳たぶの上を持ち軽く後ろ上に引っ張ると、耳の中が見やすくなる。

ちなみに耳掃除には、耳穴のほかに、耳全体の手入れもある。
こちらは入浴で体のあか落としをするのと同様だ。
頭や体を洗うついでに清潔にしておきたい。


異物が入ったら病院へ
耳の中にはいろいろな物が侵入する。
意外なところでは海水浴で入る砂。
さらには、夜寝ている間に小ぶりのゴキブリやカナブン、ガが侵入することも。
これらの虫は後退できないので、どんどん奥に入り込み、鼓膜が傷ついたりする。

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また、子どもだと、パチンコ玉や遊戯銃用の弾を耳に入れて、そのまま奥に入り込んでしまうことも珍しくない。
いずれの場合も、耳鼻咽喉科で除去してもらわなくてはならない。

耳鼻咽喉科で外耳炎用にステロイドの軟こうを処方してもらった場合は、使用法を守ること。
1~2週間で止めるようにと指示されながら、ずるずると使い続けていると、皮膚が萎縮して薄くなり、慢性の外耳炎になってしまうので、要注意だ。


出典 日経新聞 Web刊 2010.10.23 (一部改変)
版権 日経新聞



<番外編>
ビーズ玉、耳に詰まる事故7件
エポック社の玩具「アクアビーズアート」で、ビーズ玉が子供の耳の穴に詰まって取れなくなる事故が2004年の発売以降、7件発生したとして、消費者庁は28日、注意を呼び掛けるとともに、同社に予防対策を強化するよう要請した。

この製品は、水にぬれるとくっつき合うビーズ玉(約5ミリ)を並べ、動物などの絵柄を作って遊ぶもので、これまでに約500万セットが売れたという。

同庁によると、ビーズ玉が耳の穴の内部にくっついて取れなくなる可能性があるという。
7件中4件は、鼓膜に張り付いてしまい手術したケースなど、医師が全身麻酔をかけて除去しなければならなかった。

出典 読売新聞 2010.10.29
版権 読売新聞社




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