日本癌学会市民公開講座2010  その1

日本人の2人に1人はがんになり、3人に1人はがんで亡くなります。
高齢社会に伴いがん患者が増えるなか、がんが起こる仕組みの研究、新しい薬や治療法の開発が進んでいます。
9月25日に大阪市堂島リバーフォーラムで開かれた日本癌学会市民公開講座では、第一線の医師らが、最新事情をわかりやすく話しました。


●あいさつ
■がん研究、応援団に
日本癌学会理事長・野田哲生さん

日本癌学会の学術総会において、研究者やがん患者さん、行政の関係者など、あらゆる「がん研究のステークホルダー(利害関係者)」が集まり、今後の日本のがん研究のあるべき姿を話し合おうというセッションが開かれました。
このまとめは日本癌学会「大阪宣言2010」として発信されます。
 
その話し合いの中で強く印象に残ったのは、「がん研究が、具体的にどのようにがん医療に貢献しているのかよくわからない」という発言でした。
改めて市民の皆様に、ご理解を頂く努力をしなければならないと感じました。
今日の講演をお聴き頂き、「がん研究の応援団」となって、お帰り頂ければ幸いです。

<私的コメント>
ある、がん患者さんがこの学会に出席されました。
「『学会』って何のためにあるのだろう」という素朴な疑問を抱いたそうです。
当事者が思ったこともないことを、第三者の方は疑問に思うということを学びました。
文中の「がん研究が、具体的にどのようにがん医療に貢献しているのかよくわからない」という会場での質問も厳しいものです。
私も以前から、これだけ多くの発表があるのに「癌の治療」は期待するほどには進まないものなんだと考えたものです。
「癌」というものが如何に強敵であるか、ということを物語っているのでしょう。
医師でありながら「癌」については門外漢の私は、ターゲットを絞って、せめて「浸潤」や「転移」だけでも克服出来ないものかと思ってしまいます。
しかし、これらこそが「癌」の特質そのものなのでしょうから、そんなに簡単にはいかないんでしょうね。


■日曜日も相談可能
日本対がん協会常務理事・荒田茂夫さん

日本対がん協会は、52年前に発足しました。
そのきっかけになったのが、「日本にもアメリカ対がん協会のような、民間の立場でがん征圧運動を担う組織が必要だ」という日本癌学会総会での提唱でした。
今日のように、がんに対する関心が高まるずっと以前であり、「先見の明」のある提唱であったと思います。
 
当協会はさまざまな活動をしていますが、本日は無料電話相談「がん相談ホットライン」(03・3562・7830)を紹介します。
10月からは日曜日も相談を受けることができるようになり、週7日、祝日を除く毎日、午前10時から午後6時までの体制となります。

(以下、5題の専門家の講演が紹介されています)
①効果予測できる分子標的薬
②負担少ない腹腔鏡手術、増加
放射線、がん狙う精度高まる
④血管新生阻止してがん退治
⑤苦痛ない免疫療法、研究進む


①効果予測できる分子標的薬

●効果予測できる分子標的薬 国立がん研究センター中央病院乳腺科医長・田村研治さん
がんには手術、放射線抗がん剤の三つの治療があります。
手術はがんが発生した場所にとどまっている場合に取り除く治療です。
放射線も基本的に同じです。抗がん剤は飲み薬や点滴で体全体に行き渡らせて全身を治療します。
 
がんの進み具合で、治療は変わります。
乳がんを例にすれば、片方の乳房にがんがとどまっている、あるいは腋(わき)のリンパ節でとどまっていれば手術をします。
さらに広がっていれば、手術もしくは放射線治療をします。
血液やリンパ液を介して脳や肝臓などに転移していれば、抗がん剤治療になります。
 
再発した場合も、抗がん剤治療が中心になります。
さらに、手術後に再発を予防したり、放射線治療の効果を強めたりするための抗がん剤治療も行われています。
 
抗がん剤治療の目的は、患者さんの病状によって二つに分けられます。
一つはがんを完全に治す場合です。もう一つは、進行がんと共存し、できるだけ長生きするための治療です。
治療は常に、効果と副作用が起きる危険性とのバランスを考えます。
 
最新の抗がん剤「分子標的薬」はがん細胞増殖にかかわる物質をやっつける薬が中心です。


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このため、副作用が違います。従来の抗がん剤はおしなべて増殖する細胞に作用するので、血液をつくる骨髄、髪の毛、胃腸の粘膜などの細胞にも働きます。
このため、毛髪が抜けたり、吐き気を起こしたりすることがあります。
 
一方、分子標的薬はがん細胞を選んで作用するので、副作用が少ないです。
ただ安全かといえば、頻度は少ないものの特徴的な副作用があり、致死的なものもあります。
 
分子標的薬のもう一つの特徴は、がんの中にある特徴的な働きを抑えるため、治療前に効果が予測できます。
例えば、ゲフィチニブ(商品名イレッサ)は肺がんの中でも特に腺がんに効果があります。
患者さんのがん細胞をとってきて肺がんの細胞中の上皮成長因子受容体(EGFR)の遺伝子変異を調べ、効果が予測出来ます。
 
こういうことが進めば、(患者ごとの状態に応じた治療を選ぶ)オーダーメード治療が可能になっていきます。

出典 朝日新聞・朝刊 医療面 2010.10.21
版権 朝日新聞社





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