体内時計正す新睡眠薬

体内時計正す新睡眠薬 鎮静・抗不安作用に頼らず 生活習慣病の対策にも

鎮静作用や抗不安作用に頼らない新タイプの睡眠薬が登場した。
不眠の原因の一つとなる体内時計の乱れを正し、寝付きや眠りをよくするという。
専門家らは副作用も少ないとみている。
不眠が続くと高血圧症や糖尿病などを悪化させるという指摘もあるなか、生活習慣病対策として活用しようとする試みも始まった。

新しい不眠症治療薬は武田薬品工業が7月に発売した「ロゼレム(一般名ラメルテオン)」。
脳の松果体からメラトニンが出て視交叉(こうさ)上核にある体内時計の中枢にスイッチが入る状態を疑似的に再現する。
メラトニンは眠りを誘発する物質として知られ、日中はほとんど出ず、夕方からだんだんと分泌されるようになる。


昼夜逆転が改善
日本大学医学部の内山真主任教授(精神医学)はこの夏以降、若い世代に多い不眠症であるリズム障害の患者を対象に、ロゼレムを使ってきた。

例えば、朝方4~5時までに眠れず、逆に昼ごろまで起きられずに完全に昼夜逆転した「概日リズム睡眠障害」の患者に処方、服用を続けてもらったところ、次第に夜になると眠くなるようになり、症状が改善された。

内山主任教授は「いわゆる体内時計が乱れたリズム障害の傾向が強い不眠症の人にはロゼレムはよく効きそうだ」と話す。

ひと言で不眠といってもその原因はいくつかある。
体内時計の乱れのほかに、緊張や不安、寝過ぎなどで、寝付きが悪くなったり夜中に何度も目が覚めたりするようになる。

国内の不眠症治療で今、よく使われているのがベンゾジアゼピン睡眠薬だ。
入眠時のリラックス効果や抗不安作用、目覚めたときの爽快感など、薬が合えば熟睡感が得られる。

半面、半ば鎮静作用を利用して強引に「眠らせる」ため、服用後の記憶喪失や、ふらつき・転倒といった筋弛緩作用、途中でやめると不眠がひどくなる常習性といったマイナス面も見過ごせない。

不眠症患者の睡眠薬への不安は大きい。
久留米大学医学部の内村直尚教授(神経精神医学)らは、同大病院精神神経科外来患者650人余りを対象にアンケート調査を実施した。
睡眠薬に対し「大変心配している」(33%)と「少しは心配している」(34%)を合わせて、7割弱の患者が不安を抱いていることがわかった。
さらに58%の患者ができれば服用をやめるか量を減らしたいと考えており、27%が医師に相談もせずに中断や減量をしていたという。

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ロゼレムは、脳の中枢神経系に作用して精神機能に影響を及ぼす向精神薬でもなければ、習慣性のある医薬品としての厚生労働相の指定も受けていない。
日本医科大学の伊藤敬雄講師(精神医学)は「睡眠薬というより、リズム調整剤という言葉が適切だ」と話す。
同大病院では11月から精神科だけでなく、一般内科でも処方するようになった。

うつ病の兆しとして不眠になることはこれまでもよく知られていたが、2000年以降、不眠は高血圧症や糖尿病、脂質異常症逆流性食道炎など様々な疾患のリスク要因になると考えられるようになった。
例えば、ある研究報告によると、1年以上の不眠が続くことで、2型糖尿病になるリスクが正常な人に比べて1.7倍になるという。

一方、臨床現場では高血圧症や糖尿病の患者によく眠れているかどうか質問する医師はまだ少ない。
患者が不眠を訴えない限り、見落とされることになる。

伊藤講師は「副作用を考えると、生活習慣病対策に従来の睡眠薬を使うのは難しかった。海外ではメラトニンサプリメントとしても売っている。ロゼレムだと新しい適用が可能かもしれない」と話す。

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即効性期待できず
もちろんいくつか問題点はある。

個人差もあるが、ベンゾジアゼピン系のような即効性は期待できない。
また、精神的に不安な状態が不眠の主因になっている人にはあまり効かないとされる。
実際、米国では数年前から販売されているが、「既存の睡眠薬にとって代わるほどの普及はしていないようだ」(ある精神科医)。

日本の場合、不眠を訴えて病院に足を運ぶ人はまだ少なく、寝酒に頼っている人も多い。
内山主任教授は「日中の快適性を保つようにすることが不眠症治療のゴールと考えれば、依存性と副作用のないロゼレムは使い勝手のいい薬だ」とみている。
編集委員 矢野寿彦)
出典 日経新聞 Web刊 2010.11.02
版権 日経新聞


<私的コメント>
昨日、肝機能検査の結果を聞きに中年女性が来院されました。
明らかにアルコール性肝障害のパターンだったので「お酒を毎日飲んでますか」と尋ねました。
返って来た言葉は「えっ、どうしてわかるんですか?眠れないので、缶ビールを夕食時に2本、寝酒を2本」。
こういったケースを「アルコール依存性睡眠障害」と言います。
アルコールは短期的効果として眠れても、長期的には不眠がひどくなります。
飲酒を不眠解消の手だてと考えると、酒量も自然と増えていきます。
何よりも肝臓の弱い方では肝障害が起こってしまいます。
「アルコールは睡眠薬よりまし」という考えは捨てなければいけません。

睡眠薬」という言葉には患者さんは抵抗があるので、私は「睡眠導入剤」という言葉を使っています。






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