ストレス型「冷え」に注意

冷え対策の新常識

顔や手足は汗ばむのに寒い。
自覚がないのに冷えている。そんな新しい「冷え」の悩みを抱える人が少なくない。
半身浴や靴下の重ね履きなど、よかれと思っている自己流の冷え対策が逆効果になっていることもある。

そもそも「冷え」とは何か。
「冷え」とは,体が冷えている状態のことで、病気ではない。

人の体は内臓の温度をセ氏37度に保っている。
だから急に冷たい外気に触れたりすると、体から熱が逃げてしまわないように交感神経が働き、手足など末端の血管を収縮させ、体の中心部を保温する。
このとき手足は血液の流れる量が減るので冷たくなるというわけだ。
だが、冷気に触れていないのに常に交感神経が働き、血管が収縮して寒い状態になるのが、冷えだ。

中には膠原(こうげん)病や心疾患、甲状腺機能の異常といった疾患からくる冷えもあるが、そうでない限りは病気ではない。
ただ、肩こりや髪や肌のかさつき、皮膚のくすみ、体調不良など、具合の悪さと冷えは密接につながっている。

もともと女性は月経などホルモンの分泌量の振れが大きいうえ、更年期もある。夜更かしする夜型の生活といった生活リズムのゆがみも交感神経が常に働き続けてしまうことにつながりやすい。


緊張状態が要因
手足が冷たいという訴えのほかに、手足は汗をかくのに寒いという人も増えている。

汗をかく冷えは、いわば「現代版の冷え」といえる。
仕事や多忙な生活で自覚の無いままにいつも緊張状態を強いられる。

勤勉でまじめな人、リラックスしたりゆっくりしたりするのが苦手な人に多いのが特徴だ。

東京都練馬区に住む主婦、Tさん(仮名、58)は夏場でも手足が冷たく、疲れると肩こりや腰痛がひどくなり、年間を通じて体の不調がとれない。
熱めの湯を張ったたらいに足を浸す足湯をしたり、靴下を重ね履きしたり、自分なりの冷え対策をとっている。

だが足湯をしても、湯から足を出すとすぐに冷たくなってしまう。
ぬるま湯が苦手で、入浴時は熱めの湯船に出たり入ったりして汗をかくほど温まるのだが、就寝時には体は冷えてしまう。
靴下を重ね履きしても靴下が湿っぽく冷たくなっているという。

せっかくの対処が、逆効果となる。
汗をかくと蒸発するときの気化熱で体から熱を奪ってしまう。
熱い湯と冷たい浴室を行き来しては交感神経がかえって刺激される。
熱い温泉に触れると鳥肌が立つ。
寒いときと同じように血管が収縮するのだ。

入浴時には浴室の壁に熱いシャワーを振りかけて浴室を温めてからぬるま湯での半身浴をする。
ぬるま湯に長くつかると芯から温まる。
「10分つからねば温まらない」とマジメに時計をにらむのではなく、好きな香りや音楽を流し、ゆったりできるとなおよい。
ただ、Tさんのようなタイプはのぼせやすい人も多いので、「汗をかかない程度を目安に」する。

手足などの冷たい部位への対処が多いが、まずは体の中心部を温めるのが現在の冷えの新常識だ。


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食事にスパイス
もちろん体の内部から熱を作り出すことも大切。
具体的には朝食を取り、体が熱を作り出すリズムを作る。
ダイエットなどで食事を抜くのは良くない。
そして食事に体を温めるスパイスをうまく使う。
例えば温かいおかゆにショウガやネギなどを薬味として加えると、より体が温まる。
鍋料理やめん類を食べるときには体温を上げる効果のあるトウガラシやショウガを意識的に使う。

ショウガは生ではなく加熱するとショウガオールという体を温める成分に変わる。
できれば油で少しいためたり、ショウガ煮のように煮込んだりするとよりよい。

そして日常生活で使ってほしいお薦めは、おへその下20センチぐらいを覆う腹巻き。
カイロなどを併用するなら、汗をかかないように注意する。
腹巻きでも汗ばむ場合は、キッチンペーパーを1枚はさんでおき、汗ばんだらすぐに取り換えるなどこまめな対処も必要だ。

最近は男性の冷えも多い。
男性は筋肉量が女性より多いために体温を保つ力が高いのだが、ストレス型の冷えが増えているという。男性も女性と同じく、腹巻きなどを使って体幹部を温め、リラックスを心がけるのが大切だ。


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    ◇   ◇   ◇

外食ではカレーや中華を
体を温める食事といっても会社勤めで外食が重なると難しい。
そんなときに冷えが気になったら「カレーや中華料理を選んで」というのは渡辺院長。
カレーにはたくさんのスパイスが入っている。
中華料理は強い火力でいためる料理が多く、薬味にショウガやトウガラシ、ネギを使うことが多いからだ。

ショウガは粘膜への刺激が少ないので使いやすい一品。
休憩時につまむおやつをケーキではなく、ショウガのはちみつ煮や砂糖漬けを選んだり、ショウガ紅茶にして飲んだりすれば、こまめに摂取できる。

トウガラシは体を温める効果があるが、粘膜への刺激が強いので過度には使わないほうがいい。
刺激が苦手な人には、体温を上げる成分を抽出したサプリメントなどもあるので、上手に取り入れてほしい。
(日経プラスワン 2011.2.26)

出典 日経新聞 Web刊 2011.3.7
版権 日経新聞


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