体に「良い汗」「困った汗」の見分け方

この度の東北地方太平洋沖地震により被災されました方々に、心よりお見舞い申し上げます。
犠牲になられた方々、そしてご遺族の皆様に対し、深くお悔やみを申し上げます。
また、福島第一原発事案(事故)で避難中の方々、そして計画停電中の首都圏の方々にお見舞い申し上げます。
また、被災者支援や原発復旧作業などの災害対策に全力を尽くしてみえる皆様に敬意を表します。



春の訪れとともに気温が上昇し、体を動かしたい季節となってきた。
軽い運動でかく汗は、体温を調節するために必要な汗だが、なかには汗をかきすぎて困る人もいる。
きょうは、体に良い汗と困った汗の見分け方についてのお話です。

体に「良い汗」「困った汗」の見分け方

汗は、主に皮膚に無数にあるエクリン腺と呼ばれる汗ら分泌される。
成分の99%が水分で、主な役割は蒸発するときに熱をうばうことで体温を調節することにある。
発汗量は個人差があるが、環境によっても少しずつ変化する。
日本人の場合は春ごろからしだいに発汗量が増え夏の暑さに備えるというわけだ。

こうした体の機能を暑熱順化という。
しかし、最近では、エアコンの普及によって、なかには汗をかく機能が高まらないまま、夏の季節を迎える人が多くなった」。

暑熱順化しないまま暑くなると、体の表面からは塩分濃度の高いネバネバの汗が出るため、外出や運動を避けるようになり、よけいに順化が遅れる。
そして、梅雨の猛暑が続いたときなどに、夏バテを起こしやすくなるだけでなく、熱中症を起こす危険性も高まる。
発汗能力は、加齢によっても衰えるため、高齢者では特に注意が必要だ。

夏バテを防止するためにも、この季節から上手にサラサラの汗をかける体を作っておくことが大切だ。
その方法として確実なのは比較的涼しい時間帯にウオーキングなどの運動で汗をかく習慣をつくること。それが無理な場合は、1日に2~3時間はエアコンを止めて窓を開けて、自然に汗ばむ時間をつくるといい。

このとき、温かい飲み物をとることもお勧めだ。
ただし、だらだらと汗が流れるほどの無理は厳禁だ。
かいた汗は、放っておくとあせもなど皮膚症状をもたらすこともあるので、ぬれたタオルなどで拭き取ったり、適宜シャワーを浴びたりして清潔を保つことが大切だ。

このように適度にかく汗は健康づくりに役立つが、この季節、かきすぎで困る人もいる。
一般に皮下脂肪の厚い人は、熱が体内にこもりやすく、いわゆる「汗っかき」になりがちだが、これは肥満を解消すれば治るので正常な汗の範囲内だ。

病気として治療の対象となる汗は、自律神経のうちの交感神経の異常によってかく汗で多汗症と呼ばれる。

汗をかく指令を出す交感神経には2系統あるという。
一つは、体の熱を下げるための汗を出す系統で、もうひとつは精神的に緊張したときに手のひら、足の裏、額などにかく汗だ。

後者は、もともと外敵から逃げたり戦ったりするときに、木の枝などをしっかり握るために発達した機能だ。
しかし、多汗症の患者はその神経が過剰に働き、それほど緊張度が強くないときにも、手のひら、足の裏、わきの下などに大量の汗をかく。
初対面の人と握手できなかったり、書類が汗でぬれてしまったりするのを避けるために、常に手袋が欠かせないという患者の例もあるという。

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ストレス要因も
多汗症のなかでも、手のひら、足の裏の汗で困っている人は生まれつきのことが多く、手掌足底多汗症と呼ぶ。
これに対して、思春期や成人になってから増えるのは、顔面の額などに多量の汗をかく人で、これはストレスが重なって自律神経の機能に異常をきたしたもの。
また、わきの下の汗は、その中間で生まれつきとストレスの両方が原因の場合がある。

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多汗症の治療は、過剰となっている自律神経の異常を抑える必要があるため、神経疾患の専門家であるペインクリニックなどが行うことが多い。
なお、わきの下の多汗症はワキガと間違えやすいが、ワキガはアポクリン腺と呼ばれる特殊な汗腺が原因でおこる症状で、じつは日本人には非常に少なく治療法も異なる。
このほか更年期障害では就寝時に全身に多量の汗をかく症状が出ることもある。

ここ数年、猛暑の夏が続いている。
夏に向かって上手に暑熱順化することは、エアコンの設定温度を上げ省エネにもつながる。
最近、いい汗をかいているか。
ときどき自分の汗の状態を考えてみて、より良い汗をかく習慣を身につけることが大切だ。
(ライター 荒川 直樹)

重症の場合は手術治療
多汗症の治療は、軽度の場合には塩化アルミニウムのローションを汗の出る皮膚表面に塗布したり、電気的な治療を行ったりする。

重症の場合、とくに手のひらの多汗症に効果が高い最新治療が「交感神経切離術」という手術治療。
わきの下を4ミリほど切除して内視鏡を挿入し、胸の交感神経節を切除する方法で、90%以上の人が完治する。
代償性発汗といって、下半身の発汗が増える副作用はあるが、仕事に支障がでるほど重い症状の人では第一の選択となる。

ただし、わきの下の発汗メカニズムは複雑で手術治療では効果のない人もいるので、最近では首の付け根にある神経に特殊な薬剤を注射して過剰な神経の働きを止める「星状神経節ブロック」という治療が主流になりつつある。 [日経プラスワン2011年4月16日付]

出典 日経新聞 Web刊 2011.4.16
版権 日経新聞



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