パーキンソン病解明進む

発症前に嗅覚障害や便秘…

手足が震えたり、動きがぎこちなくなったりするパーキンソン病は、脳内の神経伝達物質が少なくなって起こる。
予防法や根本治療法はまだ見つかっていないものの、医師の指導で早くから適切に薬を使えば、通常に近い生活も送れるようになった。
最近の研究で発病前に表れる特徴的な症状が分かってきており、病気の定義見直しも進んでいる。


関西地方に住む60代のKさんは、2~3年前から右手が時々震え出した。
姿勢は前かがみでちょこちょこと小刻みに歩くようになり、動作もゆっくりになった。
Kさん自身は深刻には考えなかったが、表情まで乏しくなったのを心配した家族に連れられて、近くの総合病院を受診した。
すると、神経内科の医師から「パーキンソン病を発症しています」と言われた。現在は薬で治療中だ。

5~10%が遺伝
この病気は脳内で神経伝達物質ドーパミン」を作る神経細胞が減少して発症し、体の動きに支障が出る。
神経細胞がなぜ減るのかは詳しく分かっていない。

患者は国内約15万人で、50~70代に多い。
遺伝が関係するとはっきり分かっている「家族性」が全体の5~10%で、残りの90~95%は家族に患者がおらず原因が不明の「孤発性」だ。

家族性、孤発性とも病態は同じだ。
手足が震える、筋肉がこわばる、動きが遅くなる、体のバランスが取りにくく転びやすくなる――の4つが主な症状だ。
初期によくみられるのは手の震えで、発症して数年たつと他の症状も併発するケースが多い。

ただし、この病気は運動障害だけが起こるわけではない。
頻尿や尿が出にくくなる排尿障害のほか、立ちくらみが起こる起立性低血圧、うつや認知症、痛みを伴うなど様々なケースもある。
パーキンソン病は全身疾患というのが専門家の共通した認識になっている。

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診断は専門の医師が似たような症状が出る病気を除外しながら絞り込んでいく。
問診や磁気共鳴画像装置(MRI)の検査などを活用し、薬の影響や脳梗塞などで運動障害が起きていないか確認するう。
薬を投与した際の心臓の神経細胞の働きから調べる検査法を使う場合もある。

まだ分からないことが多いパーキンソン病だが研究の積み重ねで発症メカニズムは少しずつ明らかになってきた。
脳内にたんぱく質「α(アルファ)シヌクレイン」が何らかの理由でたまり、この影響でドーパミンを出す神経細胞が死滅し発症するというのが今の主流の考え方。
家族性ではαシヌクレインを作る遺伝子など十数種の原因遺伝子も報告されている。

一方、孤発性患者の多くで、健康な人と遺伝子のわずかな差があることが見つかっている。
「孤発性は遺伝子のわずかな違いによる影響に、様々な環境要因が積み重なり、一定レベルを超えると発症する」と話す専門家もいる。
ただ現時点では、環境要因はよく分かっていない。

定義見直しも
国際学会ではパーキンソン病の定義を見直す動きがある。
近年の研究で、パーキンソン病の主な症状の出る数年前から、別の特徴的な症状が表れることが分かってきたからだ。

それは、においを感じられなくなる嗅覚障害と便秘、さらに寝ているときに夢の内容に合わせて体が動いてしまう「レム睡眠行動障害」の3つ。
嗅覚障害が起こるのは、αシヌクレインたんぱく質が脳の嗅覚に関係する部位の「嗅球」に最初にたまりやすいためだ。

また、αシヌクレインが腸管にたまると便秘を招きやすくなる。
レム睡眠行動障害は夢に合わせて大声を出したり手足を動かしたりする症状で、目覚めた後も夢の内容をはっきり覚えているのが特徴だ。

海外ではこうした症状がパーキンソン病患者の半分に見られるなどと報告されている。
しかし、これらの症状のある人すべてがパーキンソン病になるわけではない。
残念ながら、早期診断や治療に結びついていない。

現在の一般的な治療は不足するドーパミンを補う薬「Lドーパ」やドーパミンを受け取るたんぱく質に作用する薬を中心に、様々な補助薬を組み合わせる手法だ。
薬の副作用で症状の起伏が激しくなったり、薬が効きすぎて勝手に体が動いたりする場合もあるが、専門医が薬の組み合わせを工夫すれば抑えられる。
手術で症状軽減を目指す治療もある。脳に電極を入れ、電気刺激で運動機能を改善する方法だ。

薬も電気刺激も対症療法にとどまっているが、早めに治療すれば、通常の生活を長く保てるようになってきたと専門家は指摘する。
70代で発症し、歩行障害などにとどまる患者なら10年は日常生活を全うできる。
体の動きが何となくおかしいと思ったら、神経内科などを一度受診してみよう。 (松田省吾)

出典  日経新聞・夕刊  2012.4.13
版権  日経新聞


<自遊時間>
週末は京都で開かれた日本内科学会総会・講演会に出席しました。
京都駅から会場の「みやこめっせ」に向かう途中、運転手さんが祇園の小道を通り、「例の事故(事件)」を説明してくれました。
亡くなられた方のご冥福をお祈りします。

電柱激突前、ブレーキ操作も=最後まで巧みに運転か―京都府
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120415-00000104-jij-soci


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京都・平安神宮の「枝垂れ桜」
2012.1.15 14::37 撮影


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