感染力強い水虫の菌

足だけではない 感染力強い水虫の菌が頭や体に

原因となるカビの仲間の白癬菌は足以外にも感染する。
頭部に感染した場合は「しらくも」、胴体なら「たむし」と呼ばれる。
十数年前に感染力が強いタイプの菌が海外から侵入し、国内でも広がっている。
根気よく治療し、身近な人にうつさないよう気をつけたい。

東京都内に住む10代のA子さんは数年前、夏休みの2週間を祖父母宅で過ごした。
自宅に戻ってみると、体に直径1~2センチメートルの湿疹のような赤い縁取りの斑点がいくつもできていた。
不安になって病院を訪ねると、たむしと診断された。
検査で「トリコフィトン・トンズランス」という菌が皮膚に潜んでいた。
感染源をたどると、祖父母宅に住むいとこが柔道部員でこの菌に感染していた。
滞在中にうつってしまったのが原因だった。

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首などに水虫の菌が付くと、特徴的な縁取りのある赤い斑点ができる

■菌は垢や毛、爪などを餌に
水虫は日本人の約5人に1人が悩むともいわれるほど患者が多い。
原因となる菌は、はがれ落ちた皮膚である垢や毛、爪などに多いたんぱく質の「ケラチン」を餌にしている。
このため、体のどの部分に菌がいてもおかしくない。
感染した人の垢や毛が落ちていれば、そこから感染が広がる。

しらくもはかつて別の菌が原因で、子供や高齢者が中心だった。
しかし今ではほとんど見られなくなり、「トンズランス菌がしらくもの原因菌として最も多くなったと考えられる。

トンズランス菌が日本に入り込んだのは2000年ごろで比較的最近だ。
もともと南米などに生息していたが、欧米やアジアなどに広まった。
柔道やレスリングなどの格闘技の交流試合などを通じ、選手の間でうつったと推定されている。
この結果、しらくも感染が大人を含めて再びみつかるようになった。

■頭部や顔、首にも感染
この菌は頭部や顔、首などに感染しやすく、感染力も強い。
数分間の試合でも、相手が感染していれば接触した部位からうつるという。
また、感染している人と2週間程度、一緒に暮らすと落ちた垢などからうつる危険性が高まる。
合宿などの集団生活も多い柔道の場合、競技者の約10人に1人の割合で感染しているとみられる。

最近は柔道などをやらない人の間でも感染するケースも増えている。
柔道などの選手が試合で感染して菌を家に持ち帰り、子供と遊ぶうちにうつしてしまう。
その子が学校でほかの子と遊んだ際に感染を広げてしまったといったケースがあるようだ。

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■感染力強いが、症状比較的軽い
首や顔などに菌が感染した場合は、赤い斑点が出るので異変を見つけやすい。
これに対し、頭部に感染した場合は一見するだけでは分かりにくく、気づかないまま感染を広げてしまうこともある。

トンズランス菌は感染力が強い半面、症状は比較的軽い。
ふけやかさぶたが少しできる、毛穴に菌が入り込んで黒い点ができるといった症状にとどまる患者が多い。
ただし中には、頭皮が盛り上がって膿(うみ)が出たり、脱毛が起きたりする例もある。
円形脱毛症と診断され、治らずにずっと悩む例もある。

感染が疑われた場合はまず、ブラシ検査を実施する。
短い毛が並んだブラシを使い、先端部が頭皮全体に当たるように、やや強めに10~15回とかす。
そのブラシの先端を寒天に押し込んで培養し、2週間後にどんな菌が増えたか観察する。

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■治療中断せず、しっかり治して
菌を特定したら、治療にうつる。
体のたむしだけの場合は塗り薬を使う。頭部も感染していた場合、菌が少ない人は抗真菌剤入りのシャンプーを使って効果をみる。
菌が多い人は飲み薬を使うのが基本だ。外敵から身を守る免疫機能が低下すると菌が増えてしまうので、免疫を抑えるステロイド入りの塗り薬を使わないようにする。

適切に治療すれば1週間ほどで症状が消える。
この段階では菌がまだ皮膚の毛穴に潜んでいるので、治療をやめると保菌者のままになってしまう。

症状が消えたからといって治療を中断せずに、薬を1~2カ月程度使い続けてしっかりと治すことが重要だ。
しらくもはブラシ検査を再度実施し、菌がいなくなったのを確認するまでが治療だ。

治っても、家族や部活動の仲間などが菌を持ち続けていると、再感染につながる場合もある。
脱毛を繰り返したり、顔や首などに赤い斑点がいつまでも残ったりする。
感染源になりうると自覚し、責任を持って根気よく治療する必要がある。
出典 日経新聞・夕刊 2012.5.25
版権 日経新聞


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出典
日経新聞・朝刊「春秋」212.6.1


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