コレステロール、好きなだけOKではない

コレステロール、好きなだけOK じゃありません

今日ご紹介するのは東邦大学・村上義孝教授が書かれた「コレステロールと食事」のお話です。
http://www.asahi.com/articles/SDI201603312817.html?iref=com_apitop

上限値がなくなったということは、コレステロールは本当に「好きなだけOK」なのかというと、そうではありません。

日本人の食事摂取基準を見ても「コレステロールはいくらとってもいい」なんてことは書いてありません。
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10901000-Kenkoukyoku-Soumuka/0000042631.pdf
128ページの「3-6.まとめ(目標量)」には、次のようなことが書かれています。
1.生活習慣病が重症化しないよう予防するための脂質の目標量は、設定できるだけの科学的根拠が(今のところ)十分でない状況にある。
2.病気の原因によって治療法(食事療法を含む)は異なることも多く、薬物療法との関わり合いも複雑なため、食事療法の内容を一律に決めることは難しい。
3.このため、生活習慣病の重症化予防を目的とした脂質の目標量は設定しなかった。
 
"Absence of evidence is not evidence of absence" (証拠がないということが、存在しないということの証拠ではない)いう有名な言葉があります。
http://www.asahi.com/articles/SDI201601197393.html
 
上記の1. についていえば、「現段階では脂質の目標量を示す科学的根拠が一部あるものの、十分ではない」という趣旨について遠慮がちに言っているだけで、「脂質の目標量はない(存在しない)」と宣言しているわけではないのです。
 
コレステロールの目標値がなくなったことに対する誤解と混乱は、日本に限ったことではありません。
日本よりも先に上限値が撤廃された米国でも「コレステロールは好きなだけ食べてOKになった」という誤解があるようで、米国医師会雑誌JAMAの今年2月2日付の号で米国の保健福祉省の人たちが、'Dietary Guildline for Americans'(アメリカ人のための食事摂取基準)という解説記事を書いています。
http://jama.jamanetwork.com/article.aspx?articleid=2481221
 
解説記事では、砂糖、飽和脂肪と食事由来のコレステロール、食塩の3つに焦点をしぼり、重点的に説明をしています。
特にコレステロールについては以下のように説明されており、飽和脂肪の摂取に気をつけて健康的な食事パターンを守れば適正なコレステロール摂取量は保たれる、と説明されています。
 
「2010年食事摂取ガイドラインで重要なポイントであった食事由来コレステロール消費量の1日あたり300mgという制限は、2015年の同ガイドラインには盛り込まれなかった。その理由として量的な上限のための十分なエビデンスが得られなかったことが挙げられる。しかしながらこの改訂は食事由来コレステロールをもう考えなくてよい、と言っているのではない。バターやソーセージのようにコレステロールが高い傾向にある食べ物は一般に飽和脂肪酸が高い傾向にある。食事摂取基準の中にある健康的な食事パターンの例でも、食事由来コレステロールの量は1日あたり100-300mgに保たれている」

JAMA の解説記事でも「この改訂は食事由来コレステロールをもう考えなくてよい、と言っているのではない」と書かれています

コレステロールの多い食事を無制限にとっていると、飽和脂肪酸の摂取も自然と多くなり、そのことを原因とした動脈硬化性の病気にもつながりかねないというわけです。
ちなみに上記のガイドラインでは、健康な食事パターンとして飽和脂肪摂取量を総カロリーの10%未満に抑えることを推奨しています。
 
日本動脈硬化学会のホームページでは、Q&A形式で食事のコレステロール制限の問題について言及しています。
コレステロールはどれだけ食べても大丈夫なのでしょうか?」という問いに対して、「(摂取の上限値がなくなったのは)摂取したコレステロールが血液中のコレステロール値に与える影響には個人差が大きく、どれだけまで大丈夫という数字が出せないため」、「コレステロールはどれだけとっても大丈夫という意味ではありません」などとしています。
http://www.j-athero.org/general/colqa.html
 
さて、日本人にとって健康的な食事パターンって何でしょうか?
これについては様々な意見があると思いますが、厚生労働省農林水産省が共同して作成した食事バランスガイドが有名です。
一日に何をどれだけ食べたらいいのか、イラストで表現したものです。
独楽(こま)をイメージした図は、皆さんもごらんになったことがあるかも知れません。
http://www.maff.go.jp/j/syokuiku/zissen_navi/balance/

ここで強調されているのは、運動も実践しつつ栄養をバランスよく取ることの大切さです。
この観点からも、「コレステロールは好きなだけOK」とはなりません。
 
食事バランスガイドで提案されている食生活を守ると、どんなよいことがあるのでしょうか? 
つい最近、発表されたコホート研究の論文によりますと、食事バランスガイドで提案されている食生活にどれくらい近いかをスコア化し、スコアの高低によって4群に分けて死亡率を比較したところ、スコアが高いグループでは、低いグループに比べて、死亡率が循環器疾患では0.84倍、脳血管疾患に限定すると0.78倍になりました。
がん死亡でははっきりした傾向は見られなかったのですが、全死亡でも0.85倍になることから、バランスがとれた食事によって死亡率を減少するようです。
http://dx.doi.org/10.1136/bmj.i120
http://www.bmj.com/content/352/bmj.i1209
 
「健康的な食事パターン」についてはいまだに研究の途上にあり、疫学研究を筆頭に、様々な地域で人間を対象とした研究が今も進められています。 
 
今回のコレステロールの例もそうですが、健康情報に関してはインターネット上に様々な「研究成果」や「科学者の意見」があふれています。
どの意見が信頼できるか探すのは至難の業ですが、まずは関連学会や公的機関など、その分野の社会的責任を担うホームページを見ることをお勧めします。
そして一番大事なことは、「自分の都合や甘い言葉にだまされないようにすること」だと思います。