健康維持に役立つ腸内細菌

1,000種類 健康維持に役立つ腸内細菌

腸内には、およそ1,000種類、1,00兆~1,000兆個の細菌がすんでいる。
栄養素を作り出したり免疫にかかわったりしてヒトの健康維持に役立っている。
腸内細菌が病気とかかわることもわかり、注目されている。

体にすみついている細菌は「常在菌」と呼ばれ、たまに体内に入って感染症を起こす病原菌と区別されている。
常在菌は口、鼻、耳、皮膚などにいるが、最も多いのは腸管内だ。
常在菌は「叢(そう)」とよばれる集団を作る。
 
腸内細菌叢は、赤ちゃんが生まれてくる時に体につく細菌に始まり、まわりにある細菌や食べ物から体に入ってくるものが増えてできたものだ。
口から入った細菌は、胃で胃酸による攻撃を受けて減り、腸にたどりついても、すみついて増えることができないと消えていく。
成長とともにできあがると安定し、高齢になるとまた変化する。
常在菌はヒトと助け合う関係にあると考えられる。
 
たとえば野菜にはヒトが消化できない成分が含まれるが、腸内細菌が分解してヒトに栄養を与えている。
腸内細菌叢はヒトのエネルギー源となる食べ物の種類を増やし、生存競争を有利にした。
腸内細菌叢は、病原菌に対するバリアーにもなっている。
その裏返しで、腸内細菌の種類や数の変化が病気とかかわることが次第にわかってきた。
 
患者と、健康な人の腸内細菌叢に違いがあることは、糖尿病、炎症性腸疾患、動脈硬化などで示されている。
ただ、違いがあるだけでは、病気の原因なのか結果なのかわからない。
2007年に発表された論文は、腸内細菌叢が病気の原因になりうることを示した。
肥満のヒトの便を健康な無菌マウスに移植するとマウスは肥満になったが、肥満でないヒトの便を移植したマウスは肥満にならなかった。
肥満のヒトの腸内細菌叢は、効率よくエネルギーを取り出し、脂肪を蓄積しやすいようだと考えられた。
 
現在では、健康な人の便を炎症性の腸の病気をはじめ、さまざまな病気の患者に移植する臨床研究も行われている。
 
こうした研究の背景には、遺伝子解析技術の急速な進歩がある。
08年ごろから、次世代シークエンサーと呼ばれる高速のDNA解析装置が実用化され、腸内の遺伝子を大規模に網羅的に調べることが可能になったのだ。
 
解析方法の一つは、すべての細菌が共通にもつ「16sリボソームRNA遺伝子」と呼ばれる遺伝子の配列を調べることだ。
細菌の種類によってこの配列に違いがあるため、種類数がわかる。
もう一つの方法は、遺伝子をすべて解読して、どのような働きの遺伝子があるのか調べるものだ。
 
日本人の約9割からは、のりやわかめに含まれる多糖類を分解する遺伝子をもつ細菌が見つかる。
欧米では数%で、日本の食文化が影響している。
 
人によって、菌の種類や組み合わせの割合は違う。
人ごとに最適な腸内細菌叢の状態があるのだろうが、何が最適かはまだわからない。
それに「よい」の定義は何だろう。
便秘の改善など明確であれば、科学的なデータがあるのか、それは信頼できるものかと調べられるが、「よい」だけでは何によいのかわからない。
腸内細菌によい商品といわれても安易に信じないようにしたい。
その商品が何を改善するのか確かめ、そこから判断しよう。


 
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参考
朝日新聞 2016.10.15