現代人はなぜ太るのか

現代人は なぜ太るのか

ホルモンや遺伝子がカギ
食べ過ぎと運動不足は肥満を招き、様々な病気を引き起こす。
世界で肥満人口が増加し、対策をどう打つかは人類共通の問題だ。
太る仕組みを探る研究が盛んで、食欲をつかさどるホルモンや肥満に関わる遺伝子の存在などが明らかになってきた。

2013年にユネスコ無形文化遺産に登録された和食は、肥満予防にもよいと注目される。
しかし、国内の太った人の割合は男性で約30%、女性で約20%。
ここ数年、増加傾向は頭打ちだが、男性の場合、過去30年で12ポイントも増えた。
国民全体のカロリー摂取量は減り続け、運動習慣のある人の割合もわずかに増えているにもかかわらず、肥満者数が減る兆しはない。
 
太る仕組みを詳しく解き明かす最近の研究は、食欲を調節するホルモンと肥満者に共通する遺伝子を調べるという、2つのアプローチで特に盛んだ。
皮下脂肪ではなく、内臓に蓄えられる脂肪細胞が病気と深く関連することも分かってきた。
 
食欲調節ホルモンの研究は、米ロックフェラー大学が1994年に肥満のマウスで見つけた「レプチン」によって幕を開けた。
脂肪細胞が作り出すホルモンで、脳に届いて満腹感を起こす。
現在では、レプチンの信号をうまく受け止められないときに肥満になってしまうと考えられている。
 
当初、夢の「やせ薬」が開発できるかもしれないと期待が膨らんだが、成功しなかった。
レプチンがなぜ作用しなくなるのか、理由がまだ分かっていない。
レプチンと結合するたんぱく質に変異のある人が極めてわずかだった点も、新薬としての魅力をそいだ。
 
その後、食欲を抑制するホルモンや増進するホルモンが多数見つかった。
1つのホルモンだけを対象にしても、食欲の調整は難しいという見方が一般的。
これらのホルモンは他にも多様な作用があり、出やすくしたり逆に抑え込んだりすると、副作用の危険をはらむ。
 
日本で承認されている抗肥満薬は、ノバルティスファーマの食欲抑制剤「サノレックス」のみ。
ただし極端に太った人だけが対象で、依存性の問題があるため最長3カ月までの使用期限付きだ。
脂肪の分解を抑えて消化吸収量を減らす「リパーゼ阻害剤」が欧米で販売され、国内発売も検討されているが、減量効果がわずかで腹痛や肝臓障害などの副作用が指摘され、商品化はまだだ。
 
食欲を制御する薬は日本人にはあまり適さないだろうという専門家もいる。
少ない食事量や1日1時間の早歩きなどの習慣付けの方が効果が大きいとみている。
 
遺伝子の分析からも太る原因を突き止めるヒントが出始めている。
 
食べ物を十分に取れなかった時代、エネルギーを蓄える能力の高い種が生き残り「倹約遺伝子」として現代人に引き継がれた。
この倹約遺伝子が、食糧があふれ、つい食べ過ぎてしまう時代には肥満をもたらす。
3つの代表的な遺伝子があり、太りやすい体質を調べる遺伝子検査サービスでよく取り上げられる。
 
一方で遺伝子の配列の違いを解読する研究が主流になり、倹約遺伝子は肥満関連遺伝子からはずれつつある。直接、肥満と結びつかないからだ。
倹約遺伝子があってもやせている人がいる。
特に女性に目立つ。
やせていたいという強い願望が、遺伝子の影響力をしのぐようだ。
 
大規模な遺伝子の比較から、一塩基多型(SNP)と呼ぶ配列の違いが続々と明らかになり、今や数十に達する。
2007年に確定した「FTO遺伝子」は、内臓脂肪の蓄積に関係する、人類共通の肥満遺伝子の第1号。
食欲の調整に関わっているとの説はあるが、どんな働きをしているのかはっきりせず研究半ばだ。
 
肥満の人とそうでない人の腸内の状態を、細菌の遺伝子解析から比べる研究も始まった。
野菜や発酵食品をよく食べる人は肥満になりにくく、肥満の人と腸内細菌の種類が違うことが分かっている。ただ、原因なのか結果なのかは不明で、今後の注目分野になりそうだ。

 
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日経新聞・朝刊 2014.3.2