早期胃がんを放置したら

早期胃がんを放置したらどうなるの?

日本におけるがんのうち、胃がんは長らく死亡率第一位だった。
現在は、男性では肺がんについで第二位、女性では大腸がん、肺がんについで第三位だ。
胃がん死が減った理由には、ピロリ菌感染割合の低下、治療法の進歩、検診の普及、食生活の変化などがあると考えられる。

がん検診の有効性を厳密に評価するには、検診対象者を検診を受ける群と、受けない群とにランダムに分けて、胃がん死や進行胃がんがどれくらい起こるかを数えて比較しなければならない。
しかし、今となっては検診を受けない群を設定する臨床試験は倫理的に行うことができない。
検診を受けない群に振り分けられた人が不利益を被るからだ。
同様に、早期胃がんが発見された患者さんを、手術群と放置群に分ける臨床試験も行うことができない。

しかし、早期胃がんを放置したらどうなるのか、まったくわかっていないわけではない。
ほとんどの早期胃がんは治療(外科的切除または内視鏡的切除)されるが、まれに例外がある。
大阪府立成人病センターおよび大阪がん予防検診センターが、さまざまな事情で治療しなかったか、あるいは半年以上治療が遅れた早期胃がんを追跡した研究を発表している。

治療を受けなかった早期胃がん56例中、36例が進行胃がんになり、20例が早期胃がんにとどまった。
観察期間は6~137ヶ月(中央値39カ月)だから、早期胃がんにとどまった20例も、もっと観察期間が長ければ進行胃がんになった可能性がある。
早期胃がんが進行胃がんに進む期間の中央値は44カ月と推定された。

早期胃がんを放置すると多くが進行胃がんになる。
当たり前のようだが、こうしてきちんと集計して発表されているのは大事なことだ。
胃がんの症例数が多い施設でないと不可能な貴重な研究だ。

ランダム化比較試験が行われていなくても、それ以外の方法で十分に証拠が示されているので、胃がん検診も胃がん手術もすすめられているのだ。
胃がん検診は無効」「がんは放置したほうがよい」と主張する本もあるが、医学的には間違っている。
こうした本をうのみにすると命に関わることがあるので、注意したい。

参考:
国立がん研究センターがん対策情報センター「がん情報サービス」
http://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html

朝日新聞 2017.1,16