難治性てんかんには糖質制限を

難治性てんかん 糖質減らした「食」で挑む 保険適用で再び脚光 食材確保に課題

難治性てんかん患者を対象に、糖質摂取を極端に減らした「てんかん食」による治療が2016年4月、保険適用された。
約100年前に考案され、抗てんかん薬の登場で廃れかけたが、薬が効かない患者への有効性が再評価された。
ただ厳しい食事制限を生涯続けなければならず、患者や家族の負担は大きい。
対応した食材をどう確保するかも課題だ。

病院の負担減少
2016年4月の診療報酬改定で加算がつき、指導料も得られるようになった。
そのため医療機関が「持ち出し」だった負担は減り、取り組みやすくなった。
薬が効かず、手術できない患者らの3~5割で効果が期待できる、という。
 
てんかんは脳神経の興奮などで起きる発作の総称だ。
手足がぴくっと動くなどの軽い症状から、意識を失う重い症状まである。
年齢を問わず発症し、患者は推計約100万人。
2~3割は薬でコントロールできない難治性で、てんかん食は主にこうした人向けだ。
 
糖質を1食数グラムから数十グラムに抑え、体内で「ケトン体」が生成される状態にするため、ケトン食とも呼ばれる。
詳しいメカニズムは未解明だが、脳が糖質の代わりにケトン体を栄養源に活動するようになり、発作が減ると考えられている。
 
砂糖類をはじめ、ご飯やパンなどの穀類、イモなどの根菜は糖質が多く、ほとんど食べられない。
治療中はずっと制限が必要で、誤って糖質を取り過ぎると効果が失われる恐れがある。
 
脂質でカロリーを補うため、1品で大さじ1、2杯の油を使う場合もある。
年齢や症状に合わせ内容を検討し、調理では栄養素を厳格に計算。
小児なら成長に応じた配慮も必要だ。

具体的には1カ月前後の入院でてんかん食に慣れてもらう。
その後は家庭での継続が必要だが、脂っこいため食べにくい。
調理をする家族の負担は決して軽くはない。
ある医療機関では基本レシピを紹介、食材を替えれば様々なメニューを作れるようにしているほか、パソコンで栄養を計算できる独自ソフトも提供する。
 
ただ保険適用されたとはいえ、こうした医療機関は少ない。
精通した医師、栄養士らがチームを作って治療に当たる医療機関は全国で10カ所にも満たない。
 
てんかん食は1920年代に欧米で考案されたが、抗てんかん薬の登場で提供が減った。
「古い治療法」「栄養バランスの悪い食事を与えるのは問題」と考える関係者も多い。
このため医師向け研究会などで普及に取り組む動きもある。
 
対応する食材をどう確保するかも課題だ。
多くが小麦粉代わりに使える特殊粉ミルク「ケトンフォーミュラ」をレシピに採用しているが、製造するのは国内で明治1社のみ。
登録した患者に無償提供しているものの、国の補助金は限られ、製造コストは大きい。
災害などで生産が止まれば、治療が続けられなくなる恐れもある。
 
最近はダイエットのため糖質制限が注目され、「糖質ゼロ」をうたったり、糖質量を細かく表示したりする市販品が増えた。
そのため以前に比べ、市販品をメニューに取り入れやすくなった。
 
小児患者は学校給食にも気を使う。
学校や保育所には弁当を持参する患者が大半。
食物アレルギーへの対応は進んだが、てんかんへの配慮も検討してほしいと関係者はいう。

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拠点病院、8都道府県 専門医療の提供急務
てんかん医療は精神科、神経内科、小児科など多くの診療科がかかわるが、専門医は全国で約600人にとどまる。
専門医が1人のみの県もあり、患者が地元で専門的な治療を受けられない場合もある。
高齢者の発症が目立ち、ますます高齢化が進む中で提供体制の整備が課題だ。
 
厚生労働省は昨年度から3年間のモデル事業として「てんかん地域診療連携体制整備事業」を開始。
都道府県が1カ所ずつ「診療拠点病院」を指定し、地域のてんかん医療の質向上を目指す。
 
拠点病院には「診療支援コーディネーター」の配置が必要で、患者からの相談に応じるほか、地域の医療機関同士の連携強化にも取り組む。
 
ただ拠点病院の指定は8都道府県にとどまる。
同省精神・障害保健課は「指定が広がるよう支援を続ける」とする。

参考
日経新聞・朝刊 2016.12.11