生命を担うたんぱく質

生命を担う10万種類のたんぱく質

肉や魚、卵――。
私たちは様々な食品から、たんぱく質を摂取している。
水分を除くと、私たちの体の半分近くを占める重要な物質だ。
その働きに異常が起こると、病気の原因にもなる。

動物の肉や卵などのほか、大豆などの植物にも、たんぱく質は含まれている。
厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2015年版)」では、成人が食事で摂取する量について、男性は1日に60グラム、女性は同50グラムをそれぞれ推奨量としている。
 
たんぱく質は体内でも合成することができるが、一方で、老廃物として排泄されてしまうため、その分の材料を補う必要がある。
 
たんぱく質の正体は、複数の「アミノ酸」が鎖のように連なり、折りたたまれた「ひも」だ。
体内に入ったたんぱく質は、胃や腸の消化酵素アミノ酸に分解される。
サプリなどで直接摂取したアミノ酸も同様だが、小腸で吸収されたアミノ酸は血管を通じて全身の細胞に運ばれ、新たなたんぱく質の材料になる。
 
私たちの体内で、たんぱく質はどのように合成されるのだろうか。
 
生命の設計図であるDNA上にある遺伝子には、特定のたんぱく質を作る情報が書き込まれている。
アミノ酸の種類や数、並べ方の順序など、その指示通りにたくさんのアミノ酸が数珠つなぎとなり、たんぱく質が作られる。
 
材料となるアミノ酸はわずか20種類。
ヒトの遺伝子は2万数千種類だが、実際には一つの遺伝子から複数の種類のたんぱく質が作られることも珍しくない。
私たちの体を構成するたんぱく質は、10万種類に達するといわれる。
 
たんぱく質には、体の構造を作る「部品」としての役割がある。
筋肉に多い「アクチン」、髪の毛や爪の「ケラチン」、皮膚や骨の材料になる「コラーゲン」などがそうだ。
コラーゲンには肌の弾力を保つ働きがあることが知られている。
ただ、食べても胃腸でバラバラに分解されてしまうので摂取したものがそのまま皮膚へ運ばれるわけではない。
 
食べ物の消化などを担う「酵素」、ウイルスや細菌など外敵から身を守るのに役立つ「抗体」、細胞から細胞に様々な情報を伝える「伝達物質」――。
いずれもたんぱく質で、それぞれが多種多様な機能を発揮して生命活動を支えている。
 
一つの細胞の中では約80億個のたんぱく質が働いている。
1秒間に数万個が作られ、同時に壊されている。
古いたんぱく質と新しいたんぱく質を猛スピードで入れ替えることで、生命が成り立っている。
 
たんぱく質がうまく働かないと、病気が引き起こされることも知られている。
 
生まれつき特定のアミノ酸が作れないと、様々な遺伝性の病気を発症する。
アルツハイマー病患者の脳内には、異常なたんぱく質が蓄積することが分かっている。
高齢者に多い白内障は、目のレンズを構成するたんぱく質が変質し、水晶体が濁る病気だ。
これらは、たんぱく質をうまく作れなかったり、品質管理する仕組みが働かなかったりすることが原因とみられる。
 
東工大大隅良典・栄誉教授は、細胞内の不要なたんぱく質を分解してリサイクルする「オートファジー」の仕組みを発見し、昨年、ノーベル医学生理学賞を受賞した。
細胞内の異常なたんぱく質を掃除し、品質管理をする仕組みの解明が進めば、将来は様々な病気の治療法開発につながると期待されている。
 
たんぱく質を意味する「プロテイン」の語源は、「一番目の」「重要な」というギリシャ語。
まさに、私たちが生きていく上で不可欠な物質といえる。
ただ、人体に含まれる10万種類とも言われるたんぱく質のうち、機能が解明されたものはごく一部という。

 
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参考・引用
朝日新聞・朝刊 2017.7.1