夜勤で高まる「がん」発症リスク

夜勤で高まる発症リスク

睡眠時間とがんのリスクとは別に、夜間勤務自体ががんを増やすことが知られている。

夜間も働く代表が看護師だ。

看護師の勤務は日勤(通常8~16時)、準夜勤(16~24時)、深夜勤(24~8時)の3交代制が一般的だ。
デンマークの女性看護師を対象とした調査では、常時日勤の看護師に比べて、深夜勤務の人に乳がんの発症リスクが有意に高まることが明らかになっている。
また、深夜勤の経験期間が長い、あるいは回数が多くなるほどリスクは高くなる傾向も見られた。
こうした調査結果も踏まえて、デンマーク政府は、20年以上の夜勤交代勤務経験を有する乳がん患者の一部を労災認定している。
同じく看護師を対象にした米国の大規模な調査でも、夜勤の期間が長いほど、乳がんの発症リスクが増加する傾向が認められた。
11万5千人の看護師を12年間追跡した結果でも、全く夜勤に従事しなかった人と比較して、夜勤を20年以上経験した人の乳がんの発症リスクは約8割も高まっていた。

看護師に加えて航空機の客室乗務員、電話交換手などを含めて総合的に分析した研究結果でも、夜間勤務の女性の乳がんのリスクは5割近くもアップしていた。
夜間勤務の影響は欧米の女性看護師を中心にデータが集められてきたが、日本人の男性労働者を対象に、勤務時間と前立腺がんのリスクとの関係を検討した研究も実施されている。
その結果、前立腺がんの発症リスクは、日中勤務する人に比べて、夜間勤務者では2.3倍、夜と日中の交代制勤務者では、3倍にまで高まることが分かった。
世界保健機関(WHO)の外部機関である国際がん研究機関も2007年、夜間勤務を、ヒトに対しておそらく発がん性がある「グループ2A」という分類に認定している。

人手不足が進むなか、コンビニやファミレスなどの24時間営業を見直す動きが出ている。
深夜勤務や交代制勤務による発がんの問題も、働き方改革のなかで議論されるべきかと思う。
営業時間の制限や、無人化の取り組みも解決策の一つかもしれない。

執筆 東京大学病院准教授・中川恵一先生
参考・引用一部改変
日経新聞・夕刊 2019.4.10