今110歳まで生きられる! 脳と心で楽しむ食生活 その9

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池畑広之  高原の秋  P12号  日本画
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前回に引き続き家森幸男先生の本からの
紹介です。


「今110歳まで生きられる!  
脳と心で楽しむ食生活」
家森幸男 著  生活人新書  
日本放送出版協会 発行

興味を持たれた方は是非、本でお読みください。
素晴らしい本です。
食事に気をつければ、何だか長生きしそうな気にさせてくれます。


主食は大豆とトウモロコ

中国の長寿地帯の一つとして知られるのが、貴州省省都・貴陽です。
標高1000~1500メートルという高地にある町で、中国の共同研究者から、「奥地にあって経済的にも本当に貧しいけれど、長生きの人が多い 。
高血圧も、脳卒中や心臓病、がんで亡くなる人も少ない。
ぜひ調べるべきだ」と提案され、調査地域に加えました。

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こうして、1987年に調査に赴いたのですが、この時点では、貴陽の長寿の秘密がいったいどこにあるのか、まったくわかっていませんでした。
検診をしてみると、確かに優秀な結果が出ました。
高血圧の割合が、中国の12地域の中で2番目に少ない。
最も少なかったのは広州です。
尿のデータをみると、広州の人はナトリウムの値が低く、食塩を使わず、自然の食材の味を楽しんでいることがわかりましたから、うなずける結果でした。
しかし、貴陽の人はナトリウムの値はそれほど低くありません。
それでも高血圧の割合が低いのはなぜなのか。
そのヒントは、食生活にありました。

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貴陽の人は、大豆を日常的にいろいろな形で食べています。
中国の人は通勤途中に屋台で朝の食事をしていきますが、貴陽では、その屋台のメニューにほかの地域では見られないものがありました。
厚揚げを固く焼いたような感じの「焼き豆腐」です。
見た目はハンバーガーのようですが、こちらの方がずっと健康的といえるでしょう。

驚きの大豆食品

市場に行くと、さまざまな種類の大豆やその加工品が並んでいることに、まず驚かされました。
干し豆腐、木綿豆腐、発酵させた豆腐、豆乳などなど。
なかでも感心したのが、「豆腐麺」です。
チーズのように固めた豆腐を薄い板状にして乾燥させ、それを細く切って麺のようにして食べるのです。
さらに感心したのは麺のスープです。
たとえば、ラーメンのスープは食塩が多量に含まれていますから、全部飲んだら体によくはありません。しかし、貴陽の豆腐麺の麺スープは豆乳がベースですから、これなら全部
飲んでも大丈夫です。
なぜなら、のちほど詳しくお話ししますが、大豆にはナトリウムの害を打ち消す効果があるのです。
そして、麺はピリ辛醤油のつゆにつけて食べていました。
賀陽でこのような豆腐の食文化が発達したのは、飛行機の中から見たカルスト地形が
関係しています。
豆腐をつくるのにはマグネシウムを含んだにがりが必要です。
沖縄などでは海水を利用していますが、貴陽ではカルスト地形の石灰岩に含まれるマグネシウムをにがり代わりに使い、カチカチに固めた豆腐もありました。
豆腐以外の大豆加工品も豊富でした。
ショックだったのは、日本発祥だと思ってい
た糸引き納豆まであったことです。
平安時代、京都の武士が東北地方に遠征したときに、炊いた豆を稲藁の中に入れておいたら、いつの間にかねばねばしていた。
もったいないので食べてみたらおいしかった。それが納豆の発祥だ---といういわれが京都には残っています。
しかし、それと同じものが貴陽にもあったのです。
日本よりもはるかに大豆加工品のバリエーションの多い土地柄ですから、おそらくこちらが本家本元なのでしょう。
ただし、稲藁に入れるという発想は日本独自のものです。
貴陽では、ぼろ布を蒸した大豆にぽんとかぶせて納豆をつくっていました。

大豆の秘密はイソフラボンにあり

大豆を食べる習慣と長寿とが関連がありそうだということは、貴陽を筆頭に、世界各地を調査するなかで見えてきました。
私たちは脳卒中ラットの研究から、大豆の蛋白質をとっていると脳卒中を防げるというデータを得ていましたから、蛋白質が長寿の原因
なのだろうと考えていました。
ところが、調査を進めるにつれて、それよりもさらに大豆と長寿とを関連づけるもう一つの大きな理由が見えてきたのです。
そのきっかけとなったのが、女性の閉経に関するデータです。
私たちが調査対象としていた五十歳代前半という年齢は、女性の場合、閉経を迎えた人とまだ迎えていない人の両者がいる時期です。そこで、両者のデータを比較してみると、明らかに閉経後の方のほうが健康状態が悪く、血圧が上がり、コレステロールが上がり、肥満が増えていました。
しかし、なかには閉経の影響が少ない地域もありました。
それは、大豆を食べる習慣がある地域です。そのなかでも大豆をとりわけよく食べるの
は、中国と日本です。
血圧を測るときに肌に触ると、年をとるにつれて肌が荒れているのがわかりますが、中国と日本の女性の場合は、年をとっても非常に若々しく、すべすべしていました。
ひょっとすると、大豆の中には閉経の影響を打ち消す特別な成分があるのではないかと思い、そこでたどり着いたのがイソフラボンでした。
女性ホルモンが健康状態を保つはたらきをするということは、世界中どこでも女性の心臓死の割合が男性の3~4割しかないことなどから明らかになっています。
閉経後に健康状態が悪くなる理由は、閉経によって女性ホルモンが減るためだと考えるのが自然です。
イソフラボンとは大豆の胚軸の部分にあり、女性ホルモンに似た構造をしていますから、大豆を食べることでとり入れたイソフラボンが、失われた女性ホルモンの代わりをし、それが健康状態を保つ役割を果たすのではないかと推測できました。
イソフラボンの存在が注目されるようになったのは比較的最近で、1990年代になってからのことです。
外国の研究者で、長寿の原因の一つとして、雑穀に含まれるリグニンという、女性ホルモンに似た構造をした物質に注目した人がいました。
その研究者が、日本人が長寿でいられるのは雑穀である大豆を食べていることと関係があるのではないかと考え、日本人の尿を集めたのです。
そのときに、大豆を食べている証拠として指標になったのが、やはり女性ホルモンに似た櫛造の物質であるイソフラボンでした。

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そこで、私たちも日本全国で尿を調べたところ、大豆を食べている地域ではイソフラボンの値が高く、長寿であることがわかってきました。
しかし、本当にイソフラボンが長寿と関連するのか、それだけで結論づけることはできません。

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脳卒中ラットを使った実験を進めました。
そこから出たデータは、メスの脳卒中ラットから卵巣を取り除いても、イソフラボンを与えると血圧が高くならず、脳卒中も増加せず、肥満もおこらず、毛づやもよいというよいことずくめだったのです。
私たちが世界各地の調査を始めたときには、まだイソフラボンが世界的に注目されていなかったため、イソフラボンのデータはとっていませんでした。
調査から10年がたったころ、前回の調査のお礼と報告も兼ねてもう一度調査地を訪れたとき、再び尿をとってイソフラボンのデータをとることにしました。
もちろん貴陽もその一つで、1997年に懐かしい土地を訪れました。
その結果、イソフラボンの値の高い地域では、高血圧が少なく、コレステロールの値も低いことなどがはっきりとわかりました。
その新しい調査のなかで、最も注目されたのは、がんとの関係です。
1回目の調査のとき、貴陽の人はがんが少ないという話は聞かされていたのですが、血圧やコレステロールとは違い、がんは統計的なデータをとるのがたいへん難しく、確かめることができませんでした。
しかしその後、前立腺がんの発症率を高める前立腺特異抗原(PSA)の値が、指標として有効であることがわかりました。
そこで、2回目の調査で血液を調べてみたところ、やはりイソフラボンの価の高い地域では、前立腺特異抗原の値も低いことがわかったのです。
また、骨粗鬆症を防ぐのに役立つデータも出ました。
骨からカルシウムが抜けていくときに一緒に出てくるデオキシピリジノリンという物質があり、尿のデータから調べることができます。
イソフラボンを十分食べていると、尿の中のデオキシピリジノリンが少ないという傾向が確認されたのです。

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