「体組成計」の上手な使い方

かくれ肥満の発見も 進化する体重計の実力

最近、体重計の進歩が著しい。
体重計に乗るだけで体重や体脂肪率はもちろん、内臓脂肪レベル、筋肉量、基礎代謝量、推定骨量など、体のいろいろなデータを表示する体組成計が登場している。
しかし、情報が豊富になるほど、利用者にはデータを読み取る力が必要になってくる。
体組成計は健康管理にどう役立つのか。


糖尿病および生活習慣病の臨床研究に長年携わってきたタニタ体重科学研究所の池田義雄所長は、家庭の健康管理の基本はやはり体重測定だと話す。
加齢による体重増加を防ぐことは、生活習慣病予防になる。
また、短期間の体重変化は重要な病気のサインともなる。

その上で、体組成計の利用について池田所長は「技術の進歩で体のさまざまな状態を数値で表示できるようになった。数字の意味をしっかり理解していれば、自分の体の状態や目標に合わせた健康管理を行える」と話す。

例えば、体の脂肪には皮下脂肪と内臓の周りにつく内臓脂肪がある。
内臓脂肪の過剰な蓄積がもたらすのが、いわゆるメタボリック症候群で、糖尿病、高血圧、動脈硬化性疾患のリスクを高める。
戦後、30代、40代で糖尿病を発症する男性が増えているが、その原因の一つが男性に多い内臓脂肪型肥満。
さらに太って見えないのに内臓脂肪が蓄積している「かくれ肥満」も要注意だ。

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ダイエット確認
体組成計では、全身の体脂肪率の他、内臓脂肪レベルを表示するので、内臓脂肪を減らすことを目的とした健康管理を目指すこともできる。

逆に最近、20代女性で問題になっているのは間違ったダイエットによる健康障害だ。
女性では体脂肪率が標準値を大きく下回ると月経異常などの原因にもなる。
健康的なダイエットを確認するためにも体組成計を役立てたい。

体組成計のもう一つの重要な機能は、体の筋肉量を示すことだ。東京慈恵会医科大学晴海トリトンクリニック(東京都中央区)の阪本要一所長は「メタボリック症候群の原因は、脂肪だけにあるのではなく全身のエネルギー代謝が関係している。代謝改善に重要な役割を果たすのが筋肉量だ」と話す。

例えば、人間が安静にしているときに使うエネルギー量のことを基礎代謝という。
基礎代謝が大きい体ほど、食事で取ったエネルギーを消費しやすいため内臓脂肪をためにくい。

阪本所長は「全身の筋肉量と基礎代謝は密接に関係している。筋肉量は20代をピークに低下する傾向があるが、筋肉量を維持できている人は、同じ体脂肪率でもメタボリック症候群を引き起こしにくい」と話す。

池田所長は「20代の運動習慣は全身の筋肉量を高める貯金の役割を果たすし、中高年の運動は筋肉貯金を減らさない目的がある。体組成計をその目安にしてほしい」と話す。

そして、技術の進歩は体組成計の新たな使い方を提案している。
業務用など高機能の装置では、下肢筋肉量の目安を表示する機能もある。足腰の筋肉が体を支えられないほど衰えると高齢者の転倒の原因にもなるため、下肢筋肉量を指標とした健康管理が普及する可能性もある。

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推定骨量を表示
また、更年期以降の女性では骨折予防のため骨量の維持が大切だが、市販の体組成計で推定骨量を知ることもできる。
あくまでも目安にすぎないため、医療機関などでの正確な検査の代わりにはならないが、食生活のなかで骨量を意識することに結びつけたい。

また、体組成計は統計学的な手法で数値を算出しているため、正確な数値を得るためにはサンプル調査が欠かせない。
最近では調査の拡大により子供のデータも正確に出せるようになった。
サッカーなど少年スポーツ団体が、練習のしすぎによる筋肉減少など、スポーツ障害の予防に体組成計を利用するケースも増えてきた。

阪本所長は、「体組成計は、測定条件による値の変動が大きいため、医療での応用は進んでいない。半面、その機能をよく理解して使えば、家庭の健康管理に役立つといえる」と話している。

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測定は夕方の食事前に
体組成計は、足裏などから体に微弱な電流を流したときの電気抵抗値を分析、ある数式にあてはめて体脂肪率などを推定する。タニタ開発部の西沢美幸課長は「最新の機種では、複数のデータを組み合わせることで値の変動が少なくなった」という。

しかし、体の1日の水分量とその分布は電気抵抗値に影響を与えるため、できれば毎日、決まった時間に測定することが望ましい。体の水分量と分布がもっとも安定しているのは、夕方の食事前。
「毎日、会社から帰宅し、お風呂に入る前に裸になったときに測ると、体の変化を正しく把握しやすい」と西沢課長はアドバイスする。 (ライター 荒川 直樹)

出典 日経プラスワン 2012.1.28(一部改変)
版権 日経新聞