睡眠薬

この睡眠薬、必要ですか? 変化の春、正しく服用

過剰摂取、副作用リスク/「日誌」つけて生活改善
夜、なかなか寝付けず、睡眠薬を使いたくなる人もいるだろう。
だが、本当は不眠症ではないのにそう思い込んでいたり、薬への依存が強まってしまったりする場合もある。
リスクを理解して慎重に利用したい。

何種類もの睡眠薬を組み合わせて、眠る前に十数錠も服用している患者さんがいる。
 
かかりつけ医などに相談すれば、処方箋を出してくれる場合が多い。
「効かない」と訴えるうちに薬が増えていく。
 
しつこい不眠の場合、多くはうつ病、不安症、アルコールへの依存といった精神の病気が隠れている。
慢性的な不眠を訴える5人に1人が気分障害だという調査報告もある。
 
就寝中の脳波を見ると睡眠状態が短いわけではないのに、眠れていないと感じる人も目立つ。
むやみに薬を増やせば効果が望めないどころか、副作用の心配も出てくる。
精神科などの専門医に早めに診てもらう必要がある。
 
日本で処方される睡眠薬の7割近くを占めるのが、ベンゾジアゼピン系と呼ぶタイプだ。
脳神経の活動全体を抑える神経伝達物質GABA」の働きを促し、眠りに導くGABA受容体作動薬の一種だ。
約50年の使用実績があり、10種類以上が使われている。
 
このタイプは、慣れ親しんできたからと処方する医師が多いが、問題点も明らかになってきた。
服用後にふらついて転倒し、骨折したり、認知機能の低下をもたらしたりすることがある。
 
半年以上服用している人の3~5割で、中断しようとすると動悸、発汗、不眠のぶり返しなど一種の禁断症状が現れる。
特に高齢者への利用は推奨されないという。
 
ベンゾジアゼピン系に次いで多いのが非ベンゾジアゼピン系だ。
やはりGABA受容体作動薬の一種で、筋弛緩など睡眠以外に影響が出ないよう改善したが、多少のふらつきなどは残ることがある。
 
作用の仕組みが異なる薬として注目されているのがメラトニン受容体作動薬と、オレキシン受容体拮抗薬の2つだ。
メラトニン受容体作動薬は眠りをもたらすホルモンのメラトニンと同じような働きをし、体内時計のリズムを整える。
2010年以降各国で使われている。
 
オレキシン受容体拮抗薬はさらに新しく、米メルクの日本法人MSDが世界に先駆け日本で14年に発売した。目を覚まさせる神経伝達物質オレキシン」の分泌を減らす方法で睡眠に導く。
 
GABA受容体作動薬ほど脳の働きに広い影響がないとされ、これまでのところ目立った副作用の報告はない。
ただ、長年使い続けた場合にどうなるかなど、何年もかけて状況を見る必要がある。
まだ慎重に使わないといけない段階だ。
 
睡眠薬の服用者の多くが、実は薬をやめたいと思っている。
「悪い作用もあるのではないか」と次第に不安になるからだ。
いつまで飲み続ければよいのかわからず、勝手に中断してしまう人もいる。
 
本当に薬が必要なのかは、患者が自身の状態を医師にしっかりと伝えて判断を仰ぐしかない。
床に入っても10分以上寝付けないと不眠症だと考える人がいるが誤りだ。
不眠の結果として「日中に機能障害があるか」が重要なのだ。
昼間、元気に散歩などができ、昼寝もせずに済むようなら不眠症とは違うかもしれない。
 
いつ不眠が始まったのか時期を聞けば、だいたい原因がわかる。
たとえば上司とうまくいかないのが原因と思うなら、いくら薬を飲んでも解決しない。
職場環境の改善のために産業医に協力を求めることもある。
 
効果的な治療のためには患者自身が不眠の実態や原因を把握し、理解することが大切だ。
睡眠日誌も役立つ。
何時に床に就き、眠りに落ち、目覚めたかなどを可能な限り細かく患者に記載して、それを見ながら医師と話し合う。
薬に頼りすぎない解決の糸口が見えてくることも多い。


<補足>
不眠を訴える高齢者には、実際は眠る時開が長すぎる「過眠」が目立つという。
ふとんの中に10時間もいて、「眠れない」時間を差し引いても5時間ほど服っているといった例だ。
 
本人は短すぎると感じるが、年齢が上がるにつれて睡眠時間は短くて済むようになる。60代以上の人が8時開以上眠ろうとすると苦労するという。
個人差はあるが、5時間台で問題がない人もいる。
 
ただ30~40代は本当に寝不足で、日中に機能障害がみられることも多い。
リーマン・ショック後、いったんは減った残業が再び増えて寝る時間が遅くなったのが一因と考えられている。
 
睡眠時間は短くても質を上げれば大丈夫だと考えて薬を飲む人もいるが、日中の生産性が上がったことを示すデータはない。
必要な睡眠時開には個人差があるが、早めに帰宅し時間に余裕をもって床に説くのが一番だ。


 
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出典
日経新聞・朝刊 2016.4.10