独居老人 もし倒れたら?

老いて独り暮らし 生活の不安、支えは?

一人暮らしの高齢者が増え続けている。
老後を安心して暮らすには、地域での支え合いが欠かせない。

「もし倒れたら・・・」地区で近況確認
大阪府堺市南部を中心に広がる泉北ニュータウンは、開かれて半世紀。
全国各地のニュータウンと同様に、高齢化の波が押し寄せる。
 
今月9日、マンションの一室に女性16人が集まった。
その半数以上は一人暮らし。
市民グループ「泉北ホスピスを進める会ウイル」が開く「おひとり様サロン」だ。
 
「正月やお盆を1人で過ごすのは結構、努力がいる。みんなで初詣に行きたいね」
 
ウイル代表のKさん(73)が呼びかけると、「いいね」と声が上がった。
 
ウイルは地域にホスピスケアを根付かせようと1990年代から活動してきたが、会員が高齢化。
配偶者に先立たれたり、子どもが独立したりして独居になる人が増えた。
 
そこで昨年4月に始めたのがおひとり様サロンだ。
地域ごとに四つのグループに分かれ、勉強会や介護施設の見学を実施。
医療や介護の関係者との連携もあり、「安心してこの町で最後まで過ごす」を目標に掲げる。
参加者は計60人ほどで平均年齢は約75歳。
訪問看護師を講師に招いた時は、「最期をどこで迎えたいか」で盛り上がった。
 
地区リーダーはメンバーに電話で出欠を確認し、近況も聞く。
「体調が悪くて参加できない人に『元気になったら戻ってきて下さいね』と言うだけで、本人も少し明るくなれる」と話すのはリーダーの一人、Tさん(70)。
健康に問題はないが、自身も一人暮らしで「自宅で急に倒れたら」という不安はある。
郵便受けに新聞がたまっていたら気づいてね・・・。
近所の人にはそう伝えている。
 
東京都立川市に住む女性を中心に約20人で作る「リリアンネット」も昨年4月に発足した。
メンバーは、いずれも単身の高齢女性やその予備軍の人たち。
介護や人生の終わりを迎える準備を整える「終活」を学ぶ「老楽(おいらく)セミナー」と題した定例会を毎月、開いている。
 
今月15日のセミナーでは、代表のOさん(62)がケアハウスを紹介した。
ケアハウスは、ある程度自立しているが、独居に不安のある高齢者に食事などを提供する施設。
比較的低料金で入れる。
 
太田さんが見学した2カ所について説明し、「どちらも単身向けは満室だそうです」と付け加えると、会場からは「やっぱり・・・」と、ため息が漏れた。
 
「最近はサービス付き高齢者向け住宅が増えているが、収入が年金だけのお一人様女性にはハードルが高い」とOさん。
単身高齢者に必要なのは、安心して過ごせる低価格の住まいだという。

住民同士、どうつなげる
単身高齢者は全国で650万世帯を超える。
今は自立していても、認知症や急病になる不安を抱える人も多い。
 
内閣府が2014年に単身高齢者を対象に行った意識調査では、日常生活に感じる不安は「健康や病気」(58%)が最も多く、「介護が必要な状態になる」(42%)が続いた。
孤独死を身近に感じるか」という質問には、44%が「感じる」と答えた。
 
こうした先々の不安を解消しようと、地域でつながりをつくる動きが広がっている。
 
東京都八王子市の郊外にある館ケ丘(たてがおか)団地には高齢者世帯が1千世帯ほどあり、そのうち約7割が一人暮らしという。
市は11年、団地の一角に高齢者の相談に応じる相談室を開設。
最初の1カ月間で70人が相談に訪れた。
 
「いつまで1人で生活していけるのか、みんな漠然とした寂しさや不安を訴えてきた」。
当時、室長だった男性のIさん(47)は振り返る。
 
その頃、団地内にある商店街の人通りは少なく、冷たく乾いた印象を受けた。
街の空気を変えようと、5カ月後に相談室の中に「ふらっとカフェ」を併設。
1杯100円でコーヒーを出した。
すると、カフェに集ってくる高齢者同士が知り合いになり、お互いにつながりが生まれて「ゆるやかな見守り機能」ができていった。
 
相談室が企画した団地内を歩く「ノルディックウォーキング」は男性の人気を集め、今は住民主導で月に2回行われている。
近隣の学生が高齢者を戸別訪問したり、自治会が「自転車タクシー」を団地内で運行したり。
住民と協力した取り組みは、注目されるようになった。
 
この団地でも高齢者の孤独死が起きたり、支援が必要でも介入が難しい人がいたりするといった課題は残る。
 
Iさんは「近所の人たちは異変に気づいていることが多いが、どう手をさしのべたらいいか分からない。相談室のように住民と住民、住民と行政をつなぐ存在が必要」と指摘。
国は支え合いの仕組みを作る生活支援コーディネーターの配置を進めるが、「地域の実情に応じて柔軟に取り組める態勢を作るべきだ」と求める。

高齢者をめぐる最近の主な出来事
【2005年】
・高齢化率が20%を超え、5人に1人が65歳以上になる
【2006年】
・高齢者の相談や支援を総合的に担う「地域包括支援センター」の設置が始まる
【2008年】
・75歳以上が加入する後期高齢者医療制度が始まる
・75歳以上が総人口の1割を超える
【2012年】
・100歳以上の人口が5万人を突破
【2013年】
・男性の平均寿命も80歳を超える
【2015年】
・65歳以上の介護保険料の全国平均が月5千円を超える
【2016年】
・単身高齢者が655万世帯となり、10年前の約1.6倍に
【2017年】
・日本老年学会などが高齢者の定義を「75歳以上」とすべきだと提言
・高齢者が3500万人を突破。90歳以上が200万人を超える

参考・引用
朝日新聞・朝刊 2017.10.20