大豆イソフラボン「摂取に制限」

安全なの? 有効性は?

骨粗鬆症乳がんの予防効果があるとして人気の「大豆イソフラボン」について、
食品安全委員会特定保健用食品(トクホ)などで1日に摂取する量を30ミリ
グラムまでとする評価案を出した。
豆腐や納豆など伝統的な大豆食品ではなく、イソフラボンを強化した食品の過剰
摂取への注意を促したものだが、日常生活で気をつけることなどをまとめた。       

どう作用するの? 女性ホルモンと類似

Q. 
大豆イソフラボンとはどんなものか。
A. 
大豆に含まれる苦み成分で、ポリフェノールの一種イソフラボンと総称される
が、糖類が結合したタイプ(配糖体)と結合していないタイプ(アグリコン)の2
種類ある。
みそや納豆など大豆発酵食品にはアグリコンが多く含まれるが、ほかの大豆食品
にはほとんどが配糖体のかたちで含まれている。
体内に入ると、配糖体も吸収されやすいアグリコンに変化する。
アグリコンは女性ホルモンのエストロゲンに構造がよく似ていて、体内で同様の
作用をするとみられ、乳がん骨粗鬆症の予防に有効とされ、注目されている。
イソフラボンを配合した飲料やサプリメントが次々商品化されているのは、その
ためだ。

Q. 
なぜ食品安全委で安全性を評価しているのか。
A. 
イソフラボンの錠剤や、アグリコンの量だけを通常の3倍近くに強化したみそ
など3食品が、トクホに申請されたためだ。
アグリコンエストロゲンに似ているので、過剰に摂取するとホルモンバランス
を崩す懸念もある。
そこで、毎日とっても安全性に問題がないと考えられる量を同委員会の新開発
食品専門調査会で検討してきた。

追加摂取、目安は? 1日30グラムまで

Q. 
どう評価したのか。
A. 
まず参考にしたのは日本人の食生活を調べた国民栄養調査だ。
納豆1パック(50グラム)にはアグリコンが37ミリグラム、豆腐1丁
(300グラム)には、61ミリグラム含まれる。
1日にこれらの大豆食品から摂取しているアグリコンは95%の人で、この範囲
では明らかな健康被害は出ていないことがわかった。

また、閉経後の女性に150ミリグラムのイソフラボンの錠剤を5年間毎日飲んで
もらったところ、飲まなかった人に比べて子宮内膜増殖症になる人が多かったと
いうイタリアの報告も参考にした。
その結果、個人差も考慮し、アグリコンの量として「1日70~75ミリグラム」
を日常の食生活での上限とした。

さらに追加摂取した場合の内分泌系への影響の調査などから、トクホなどで摂取
する追加の上限を「1日30ミリグラム」とした。

Q. 
妊婦や子どもは。
A. 
妊婦や晦歳未満 については、「追加摂取は推奨できない」とした。
十分なデータはなかったが動物実験で胎児や新生児への影響を示唆する報告が
あったからだ。
ただし、「とったら危険というのではなく、日常の食生活以外にあえてとることは
勧めないとうこと」と調査会座長の野川修一・日本大教授は説明している。

Q. 
評価の今後は。
A. 
トクホの申請があった強化みそは、メーカーが骨の健康に効果が期待できるとした
量をとるとアグリコンの量が追加摂取の上限の30ミリグラムを上回ると試算。
「十分な安全性が確保されるとは言いがたい」との評価案まとめた。
錠剤2製品は申請された量が上限以下のため、「適切に摂取する限りは問題ない」
としたが、「妊婦や乳幼児、小児は摂取しない」「過剰摂取はしない」などの表示
を求めることとした。
4月5日まで一般から意見を募集したうえで、厚生労働省に答申され、審査される。

気を付ける点は? 心配なら医師に相談

Q . 
1日70~75ミリグラムだと、納豆1パックと豆腐1丁でも超えてしまう。
A. 
今回の評価は、長い食経験のある大豆食品を問題にしているのではなく、イソ
フラボンを強化した食品を追加摂取した場合のことだ。
調査会では、上限はいずれも、毎日欠かさず長期間摂取した場合の目安であり、
より安全性を見込んだ値だとして「大豆由来食品でこの値を超えたからといってすぐ
健康被害に結びつくものではない」と強調している。

Q. 
トクホ申請はせずにイソフラボンの強化や配合をうたった飲料やサプリメント
も急増している。
A. 
上野川座長はこれらの食品の場合も「今回の評価案を参考にしてほしい」という。
厚労省も答申を受けて対応を検討するとしている。
ただ、こうした食品の数や種類は把握が離しく、注意表示をどうするかなど議論に
なりそうだ。

Q. 
利用するときに気をつけることは。
A. 
含まれるイソフラボンの量を表示などを見て知っておくこと。
摂取量の目安を守ることも大切だ。
 
食品に表示されている量は配糖体の場合が多い。
調査会が示した上限はアグリコンの量なので換算が必要だ。
アグリコンの量は配糖体を0.625倍すればいい。
たとえば「イソフラボン含量40ミリグラム」とあれば、アグリコンは「31.25
ミリグラム」になる。
表示が不十分なときはメーカーなどに問い合わせよう。
 
産婦人科医などからは、自己判断で過剰摂取してしまう人もいるため、上限の設定
は必要だが、今回示された値では本来必要な人が十分な効果を得られないとの懸念
も出ている。
心配なのは、種類や摂取量を医師と相談しながら利用するとよい。


トクホの解説 
健康食品のうち、安全性と有用性について個別に国の審査を受けて、健康への効果
の表示が認められた「特定保健用食品」の略称。
1991年に制度が発足し、今年2月までに581食品が認可され、2005年の
市場規模は6千億円を超えたと推計される。
当初は厚生労働省が審査していたが、2003年7月に食品安全委員会ができ、現在
は同省が同委員会に安全性評価を依頼、その結果を受けて同省が審査している。

出典 朝日新聞・朝刊 2006.3.12
版権 朝日新聞社



医療専門のブログは別にあります。
井蛙内科開業医/診療録 
http://wellfrog.exblog.jp/
(内科専門医向けのブログです)
葦の髄から循環器の世界をのぞく
http://blog.m3.com/reed/
(循環器専門医向けのブログです)