新たな指標「食後高血糖」

■“予備群”の「行動変容」促す

 気付かぬうちに発症して、ついには心筋梗塞(こうそく)、脳卒中などの合併症を引き起こす糖尿病。指標として「空腹時血糖値」が注目されてきたが、最近、「食後高血糖」の重要性が明らかになりつつある。食後の血糖値が高いと、糖尿病が進展するだけでなく、さまざまな合併症のリスクを上昇させるというのである。世界で10秒に1人が糖尿病関連の病気で死亡している現状から、糖尿病の世界的な増加に歯止めをかけるべく、予防、早期発見・早期介入が必須の時代へ。全国的な特定健診・保健指導のスタートを機に、糖尿病予備群、患者らの「行動変容」を強く促したい構えだ。(大串英明)

                   ◇

 --糖尿病に関して国連決議がされたそうですね

 エイズマラリアといった感染症を中心に国連はミレニアムプロジェクトを定めていましたが、糖尿病の増加は決して先進国だけでなく、開発途上国でも事情は同じ。バングラデシュが提案国となり、国連が「世界糖尿病デー(11月14日)」を定めて、各国に糖尿病の治療や予防にあたるよう促しています。糖尿病が世界全体の人々の健康を脅かす病気として認められたということですね。手軽なジャンクフードなどが子供の食生活に影響して小児・若年層にも2型糖尿病が増加し、働き盛りの人たちにも糖尿病が蔓延(まんえん)していることがWHO(世界保健機関)から報告されています。

 --厚生労働省の小児糖尿病の疫学研究もしておりましたね

 もともと小児に発症した1型糖尿病の研究を進めていましたが、ちょっと待てよと。中学生、あるいは小学生の高学年になると、実は1型より2型の方が多いというデータに気がついたのです。小学生の高学年から思春期を境に発症頻度が逆転してくる。肥満児の増加とも比例しており、小児メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)の有病率なども含めて共同研究を併せて行っているところです。今の時点では、ここ1、2年、肥満児は減る傾向にあります。少しずつ国や自治体の食育対策の効果が出てきていると思われます。

 --しかし、大人の世界では、相変わらず増え続けている

 その通りです。糖尿病が増えて困るのは、血管の病気だからです。糖尿病の合併症というと、これまで糖尿病性腎症や網膜症、神経障害などが注目されてきました。しかし最近は大血管症、つまり心筋梗塞狭心症脳卒中などにも、糖尿病が大きく関与することがわかってきました。糖尿病になると、大血管症が非常に早く進むことになり、それが健康寿命を短くしています。しかも大血管症は、糖尿病の予備群、つまりIGT(空腹時血糖値110mg/dl~125mg/dl、75gブドウ糖負荷試験=OGTT=後2時間血糖値140mg/dl~199mg/dlの境界域=図参照)の段階から始まっているので、今こそ注目しなくてはいけません。早期発見・早期治療が一番いい方法なのです。

 --どうやって、糖尿病を早く見つけるか

 それが食後の高血糖なのです。糖代謝が乱れてくるとき、食後の血糖値から上がっていくのです。従来、空腹時血糖値が注目されていたのは、標準化しやすいためです。ところが、大血管症を予防することを考えると、空腹時血糖値が上がってくるのを待っていたのではもう遅いのです。IGTは、OGTTや食後の血糖値を測定しないと見つけにくい病態です。また、空腹時の血糖値が高くならないまま、食後の血糖値が高くなっている、いわゆる“隠れ糖尿病”といわれる人も多いのですが、症状がないので見過ごされてしまいます。だから、何としてもIGT、隠れ糖尿病の時期に見つけ出したい。そのためには、空腹時血糖値を糖尿病の診断基準である126mg/dlまで待ってはいられない。空腹時の血糖値が3けたになったら負荷試験をしていただくか、食後の血糖値を測りましょうということになるわけです。

 --食後の血糖値がなぜ、重要なのか

 1980年代半ばから、空腹時血糖値ではなく、IGTや食後の高血糖が大血管症のリスクを高めることが、日本の舟形町(山形県)研究をはじめ、世界各地の疫学研究でいくつも明らかになってきました。食後の高血糖が怖いのは、食後にスパイクに例えられるぐらいの急峻(きゅうしゅん)な血糖値の変動が、食事の度に繰り返されることです。空腹時には血糖値が低いのに、食後だけ急激に高くなる、つまり血糖値の変動幅が大きいと酸化ストレスを亢進させ血管にダメージを及ぼすといわれています。

 最終的には、血管の内皮機能障害をきたして動脈硬化につながるわけです。血管の内皮機能に異常がおこると、炎症性のサイトカイン(生理活性物質)などが作用して動脈内にプラーク(粥(じゅく)腫)を作りやすくします。最近の研究では、高血糖がずっと持続しているよりも、血糖の変動幅が大きい方が、酸化ストレスが大きくなるという結果も報告されています。つまり、食後高血糖は、糖尿病の最初のサインであり、早期発見の目印。すでに、そのときから動脈硬化が始まっているのです。

 --そこで、IDF(国際糖尿病連合)でも、「食後血糖管理基準ガイドライン」を発表することになったのですね

 以前から、有志のワーキンググループが食後の血糖値に着目し、世界中からエビデンス(科学的証拠)を集めてまとめあげてきました。IDFに働きかけ、ガイドラインという形で作成され、2007年9月に発表されたのです。食後高血糖は有害か、その治療法、そして目標値など、4つの問いかけから始まっています。例えば「食後高血糖は有害か?」では、「食後高血糖、負荷後高血糖は、心血管疾患の独立した危険因子」と明確に答え、薬物療法を含めた治療の有用性はもちろんのこと、「食後2時間値は140mg/dlを超えないようにする」と目標値を定めています。食後2時間値140というと、随分低い値だと思われるかもしれません。多くの方に知っていただきたいのは、正常な人は、何を食べても、食べ始めてから何時間後でも、140を超えることは非常にまれだということです。ですから、食後の血糖値が180だったりすれば負荷テストを受けて糖尿病かどうか診る必要があるでしょう。このガイドラインで、正常な数値を一般の方たちにも浸透させていくことが大切だと思っています。

http://www.sankei.co.jp/metabolic/200802/080214m_lfe_131_1.htm#PageTop
出典 産經新聞 2008.2.14
   【健康らいふ】メタボリックシンドローム 糖尿病予防(2-1)
   東京慈恵会医科大学教授・田嶼尚子氏に聞く
版権 産經新聞

<関連サイト>
#食後高血糖を一発で見つける方法開発
糖尿病や心筋梗塞などの血管障害につながる恐れが高い「食後高血糖」を、1回の血液検査で簡単に見つける方法を、近畿健康管理センターの金沢裕一診療所長が考案した。
従来の方法では半分程度しか補足できなかった糖尿病の初期兆候を80%以上の感度で検出できるとして期待を集めている。
「食後高血糖」とは食後にのみ急速に血糖値が高くなり、その症状が持続するというもの。
糖尿病の初期症状とされている。
だが通常の健康診断は空腹時に血糖値を調べるため、見極めが難しい。

今回金沢所長が提案した検査方法は、血液中のブドウ糖の状態と関連する糖「1,5AG」に注目したもの。
これの計測を空腹時の血糖値と組み合わせて計測し、実証実験のデータと付き合わせたところ、糖尿病の初期症状を85%の高い感度で把握できることが明らかになった。

金沢所長は「一般の検診でブドウ糖負荷試験まで行うケースは少なく、食後高血糖は見逃されがち。
この診断法が普及し、運動療法など予防に取り掛かる時期が早くなれば」と話している。
http://www.gamenews.ne.jp/archives/m/e/post_1142.html
<コメント>
残念ながら、このニュースソースが何時のものかは確認出来ませんでした。
「1,5AG」はかなり前から検査可能な検査項目です。
しかしヘモグロビンA1cと同じ月に検査してはいけないという保険上の「しばり」もあり、
なかなか普及しません。
現在の保険制度は「はじめに医療費節減ありき」で、いろいろと理不尽な制約もあります。
医療側はそのあたりに気を使いながら日常の医療を行っているのです。





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