ペットボトル 1日で雑菌天国

ペットボトル 早く飲みきらないと、1日で雑菌天国

「開栓後はすぐにお飲みください」。
ペットボトル飲料の注意書きには「すぐに」や「早め」の言葉が並ぶ。
ペットボトルに直接口をつけて飲んでいる人が多い。
と言うより、むしろほとんどの人がそうだ。
いつまでに飲みきれば安心か。
 
「口をつけて飲む場合は、その日のうちに飲みきって」。
サントリー食品インターナショナルに聞くとこんな答えが返ってきた。
ペットボトル飲料をじか飲みすると口内の菌などが逆流。
菌が増えれば食中毒の恐れもあるためだ。
 
開栓すると、中身が空気に触れ、雑菌などが入る。
口をつければなおさらだ。
「口をつけない場合でも、開栓後は蓋をしっかり閉めて冷蔵庫に保管。2~3日を目安にできるだけ早く飲んで」と同社は呼びかけている。
 
日本コカ・コーラもじか飲みについてはやはり、その日のうちに飲みきるよう説明する。
直射日光を避けて、保存することも大事だ。
 
では飲みかけのペットボトル飲料の中には、どのくらい菌がいるのか。
微生物の試験を行う衛生微生物研究センター(東京・葛飾)で実験を試みた。
そろえたのはペットボトルに入ったミネラルウオーター、緑茶、牛乳入りの甘いコーヒー飲料の3種類だ。
 
ペットボトルに口をつけてひとくち飲み、それぞれを6度、20度、32.5度の温度で保存した。
冷蔵庫内、常温、炎天下を想定した。
それぞれ口をつけた直後と3時間後、9時間後、そして24時間後の菌の数を測り経過観察した。
 
どれくらい菌が多いと食中毒になるのか。
衛生微生物研究センターの主任研究員は「菌の種類にもよるが、1ミリリットルあたりの生きている菌の数が100万個を超えると、食中毒の可能性が高くなる」と説明する。
 
そもそも口内の菌の数は、体のほかの部分に比べかなり多い。
「手のひら全体で数十~数千個強といわれるが、口内は唾液1ミリリットルあたり100万~1千万個」。
じか飲みを通じて無菌だったペットボトルに菌が入り込むのだという。
 
数日後、実験結果が送られてきた。
ミネラルウオーターの菌の数は、32.5度下の場合、直後が100個で24時間後は300個。
データ上は「菌の数は位が変わらない限りは誤差の範囲」のため変化なしとの結果に。
他の温度や緑茶も同様だった。
 
一方でコーヒー飲料は、いずれの温度でも菌の増殖が確認できた。
32.5度下に置いたコーヒー飲料は、24時間で食中毒の危険水準を突破したことになる。9時間以内で飲むのが安心のようだ。

菌が増える条件には複数ある。
糖分などの栄養素はその一つだ。
糖度が高いコーヒー飲料は栄養素がたっぷりあった。
コーヒー飲料以外にも、ジュースや甘みがある飲料は菌が繁殖しやすい。
一方で、菌が育つために必要な栄養素がミネラルウオーターと緑茶にはなかったようだ。
 
温度も重要だ。
30~35度は、菌が一番活発になり、増殖しやすい温度。
炎天下の屋外ではペットボトルの温度は上がりがち。冷蔵庫でも増殖が抑えられるだけだ。
 
口内の状況や開封時の環境で、入り込む菌の種類や量は異なる。
食事時には口内の菌に加え食べ物が逆流する場合もある。コーヒー飲料に比べるとミネラルウオーターや緑茶は菌が繁殖しづらいが、過信せず1日で飲みきろう。
 
500ミリリットルなどの小型サイズが約20年前に登場後、ペットボトルの市場は急拡大した。
かつては全飲料に占める容器別生産シェアは半数弱だったが、15年以降は7割超に。生活に欠かせないだけに安心な飲み方を知るのは大事だ。
 
もちろん、じか飲みによる菌の繁殖リスクはペットボトルに限らない。水
筒や飲み物を移したコップなども注意が必要だ。
飲み物を持ち歩く機会も多い夏、安全に気をつけながら正しく飲みたい。

   ◇  ◇  ◇

見た目変化なくても用心
日にちがたったペットボトル飲料の見た目やにおいはどう変わるのか。
ミネラルウオーター、緑茶、コーヒー飲料をひとくち飲み、蓋を閉めて常温で放置。
朝と晩、においや見た目を観察した。

1週間後、驚いたことにいずれにも目立つ変化はなかった。
コーヒー飲料はコーヒーの香りが強く、変化がわかりづらい。見た目も白い牛乳の成分が少し分離したくらい。

1ミリリットルあたりの菌が1000万個を超えると、においが変わったり飲料が濁ったりするなど変化が表れるが、それより少ないと見分けるのは困難。
日ごろ、いつ口をつけたか忘れがち。
「まあいいか」で済ませてはいけない。


参考・引用
日経新聞・朝刊 2017.6.3