今110歳まで生きられる! 脳と心で楽しむ食生活 その14

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家森幸男先生の本からの
   紹介です。

「今110歳まで生きられる! 脳と心で楽しむ食生活」
家森幸男 著  生活人新書  
日本放送出版協会 発行

興味を持たれた方は是非、本でお読みください。
素晴らしい本です。

きょうは
今110歳まで生きられる! 脳と心で楽しむ食生活 その13
http://blogs.yahoo.co.jp/ewsnoopy/archive/2007/11/15
         の続きです。

文明が長寿村を滅ぼす  その3

ウイグル、マサイの生活も変わった


ビルカバンバの例は、決して特殊なものではありません。
世界中いたるところで、文明化が伝統的な食生活を崩壊させるという危機的な状況が
生まれています。

ウイグル族の住むトルファンやホータンは、かつては車でも数日かかったところが、
タクラマカン砂漠に高速道路ができたおかげで、比較的短時間で移動ができるよう
になりました。その結果、バスでたくさんの観光客が押し寄せるようになり、
ビルカバンバと同じように、観光客相手の店が増えはじめました。
いわば、座って店番をしていればお金が入ってくる生活です。
主食である混ぜご飯のボローは、野菜やレーズンなど乾燥した果物もきっちり入って
いてバランスがとれている半面、油で妙めるため食べ過ぎると肥満になりやすくも
あります。
それでも運動をしていればよいのですが、座って店番するだけという生活に変わって
しまっては、太っていくのも無理はありません。
以前はほとんど見られなかった肥満体質の人が、多く目につくようになりました。

またアフリカでは、都会での急激な肥満の増加が問題になっていて、50歳代で3人
に1人が肥満であったのが、10年もしたら同年代で半数の人が肥満であるという
状況になっていました。
それは、都会ばかりでなく農村地帯にも波及しつつありました。

初めてタンザニアのある村に調査に訪れたとき、そこに行く道には道路標識もなく、
本当にたいへんな思いをしました。
村には電気が通っておらず、村人は伝統的な生活を送っていたものです。
ところが、10年後に再訪すると、立派な道路標識ができ、そ
の下には大きく清涼飲料の商品名が書かれていました。
村に着くと、雑貨屋には電気がこうこうと灯り、村人がみんな集まってきて、
標識にあった清涼飲料を飲んでいました。
イスラム教の村ではアルコールを飲まないため、子どもでも買えるほど安いその飲料
を子どもから大人まで口にしていました。
これでは、肥満が増えるのも当然です。そのうち雑貨屋にはさまざまな保存食品が
並ぶようになり、伝統食にとって代わっていきました。

こうした変化は、食塩をまったく使わなかったマサイ族をも巻き込んでいました。
遊牧民である彼らにも貨幣経済の波が押し寄せ、定住する人たちが出てきていた
のです。
なかでも、マーケットで焼肉屋をしているマサイ族を見かけたときは、さすがに
びっくりしました。
主食のようにミルクや発酵乳を飲み、肉そのものはあまり食べなかったマサイ族
ですが、なんと焼いている肉の側には大量の食塩があったのです。
そして、あろうことか、そのマサイ族のほうから「串焼きには、これをつけると
おいしいぞ」と私たちに教えてきたのです。
呆然とその言葉を聞くしかありませんでした。
10年ぶりの検診をしてみると、やはりナトリウムの値が高くなっていました。
世界の平均から見ればまだ低いほうですが、安心はできません。
事実、ナトリウムに対する「感受性」が高いからでしょう、
マサイ族にも高血圧の人が明らかに増えていたのです。

マサイ族はこれまで、自然の食材からしかナトリウムをとっていませんでした。
食塩にすると一日に2.5グラム。
日本人である私たちにとっては、不足ともいえる量です。
それでもマサイ族が生きていけるのは、体のはたらきが私たちと違うからです。
人間の体は、同じ量のナトリウムをとり入れたとしても、だれもが同じように処理
できるわけではありません。
食塩をためやすい人は、食塩の影響を受けやすい、つまり「感受性」が違うのです。
感受性は、住む人の食生活のあり方と密接に結びついています。
たとえば日本人は、海に囲まれていることもあり、塩水を使って食べ物を保存する
方法を自然に覚えました。
ですから、食べ物に含まれるナトリウムの値は自然と高くなります。
そんな環境では、ナトリウムに対する感受性が強い人は血圧が高くなって早死に
しやすく、感受性があまりない人は生き残りやすいといえます。
こうして長い歴史の中で自然淘汰が起きた結果、日本人のうちナトリウムに対する
感受性があまりない人が6割、強い人は4割で、食塩をとっても影響を受けにくい
人のほうが多数派になってきたのです。
 
しかし、マサイ族の生きている環境では、食塩を自然のもの以外からとることが
できませんから、ナトリウムは少しでもためておこうとする、いわば「倹約遺伝子
をもった人こそが生き残れるわけです。
環境が変わり、マサイ族が食塩をとるようになれば、それが日本人にとっては
問題のない量であっても、体が食塩をためこめやすく、血圧が上がってしまうと
思われます。

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