食中毒を防ぐには ~カンピロバクターの場合

食中毒を防ぐには ~カンピロバクターの場合~

東京および福岡で開催されたイベントで、腹痛や下痢などの胃腸炎症状を訴える人が多数でました。

■肉フェスで49人が食中毒症状 東京・お台場、3人入院
http://www.asahi.com/articles/ASJ5J56YWJ5JUTIL02J.html

■福岡「肉フェス」でも108人食中毒 お台場と同じ業者
http://www.asahi.com/articles/ASJ5L36V3J5LUBQU00J.html

原因となる食品は鶏のささみ、あるいは、鶏むね肉で、病原菌はカンピロバクターでした。
カンピロバクターは細菌の一種で、日本の細菌性食中毒の中では最も多い原因病原菌です。

カンピロバクターは、ふだんは鶏、豚、牛などの家禽・家畜の消化管内にいて、汚染された食物を通じてヒトに感染します。
潜伏期間は2~7日間。感染後の症状は、一般的な感染性胃腸炎と同じく、下痢、腹痛、嘔吐、発熱です。
腸炎が治っても、数週間のちに「ギラン・バレー症候群」という手足の麻痺や呼吸障害をきたす神経疾患にかかることがあります。
 
前回お話した黄色ブドウ球菌による食中毒と同じく、食中毒のタイプを知ることが予防に役立ちます。
 
黄色ブドウ球菌による食中毒は「毒素型」で、しかも加熱で分解されない毒素なので、食べる直前に加熱しても食中毒は防げません。
一方、カンピロバクターは「感染型」で、生きた細菌が体の中で増殖して症状を引き起こします。
食べる前に加熱して菌を殺せば、カンピロバクターによる食中毒は防げます。
報道によると、福岡の「肉フェス」の事例では、加熱が不十分であったようです。
 
逆に、調理してから食べるまでの時間を短くしても、カンピロバクターによる食中毒は防げません。
カンピロバクターによる食中毒は、比較的少量の菌数でも発症するからです。
どんなに新鮮な肉であっても生で食べればリスクはあります。
一方、黄色ブドウ球菌による食中毒は、食品中で菌が増殖して十分な毒素を作る前に食べれば予防できます。おにぎりをにぎってすぐ食べれば、少々黄色ブドウ球菌がついていても食中毒にはなりません。
 
カンピロバクターによる食中毒は少量の菌数でも発症するので、二次汚染にも注意が必要です。
たとえば、生の鶏肉を切ったあとの包丁やまな板を洗わずにサラダ用のトマトを切ると、トマトが汚染されます。
鶏肉を十分に加熱しても、トマトを生で食べると感染のおそれがあります。
カンピロバクターに限らず、生肉由来の病原菌は複数ありますので、肉の調理器具は別にするか、十分に洗ってから使用してください。
手を良く洗うことも大切です。
手洗いはあらゆる感染症の予防の基本です。
 
今のところは、牛レバーや豚肉と違って鶏肉には生食の規制はありません。
地方によっては鶏肉を生で食べます。
福岡でも「鳥刺し」を出す居酒屋があります。
しかし、昔から食べてきたというだけでは安全だとは言えません。
新鮮だから大丈夫だとも言えません。
肉を生で食べる以上、リスクはあります。
できれば生で食べるのは避けていただきたいのですが、もし食べるとしても、リスクを十分に理解した上で自己責任で食べてください。

出典
朝日新聞 2016.5.23